クレバーじゃなくていい。計算ではなくパッションこそが、人を動かす音楽たらしめる。Mega Shinnosukeの近年の作品が特に気持ちいいのは、そのマインドがどんどん研ぎ澄まされているからだ。「衝動に忠実」とか「音楽は楽しいからやる」とか、当たり前のものが社会の構造や人間臭い邪念によって遠ざかってしまうことはよくあるが、Mega Shinnosukeは作品を出すごとにその「当たり前」に近づいている。しかも衝動的に生み出すフレーズがあまりにグッドメロディだらけで、「見せかけじゃない才能を感じますね、僕から(笑)」と本人は笑い混じりで言うが、それこそがむしろMega Shinnosukeのアーティスト性の核心で、作為的なものを排除すればするほどその核心が剥き出しになっている。ものを作る環境も、「普遍的なもの」や「バズるもの」を作る方法論も、誰もが容易に手に入れられる時代に、強烈に惹かれる音楽やアーティストとはどういったものであるのか。前作から10ヶ月でニューアルバム『ロックはか゛わ゛い゛い゛』を完成させたMega Shinnosukeとそんなことを語り合った。
インタビュー=矢島由佳子
アルバム全体のテーマは、特にない。自分のそのときの状態が出て、結果的にそうなった。今回の『ロックはか゛わ゛い゛い゛』は、「音楽やってて楽しいよ」という感じ
――3枚目のアルバム『ロックはか゛わ゛い゛い゛』はどんなものにしたいと考えていたのでしょう。「ぶっちゃけて言うと、アルバム全体のテーマは、特にない。今までアルバムのテーマを言っていたと思うんですけど、後づけというか。自分とアーティストとしての自分があまり乖離してないから、そのときの状態が出て、結果的にそうなったという感じで。今回の『ロックはか゛わ゛い゛い゛』は、『音楽やってて楽しいよ』という感じ。ははははは(笑)」
――前回、“一生このまま”を配信リリースしたタイミングで取材させてもらったとき、「やらなきゃいけないと思っていることをやめればやめるほど元気になっていく」という話をしてくれて。そのマインドを音楽に昇華すると、ただの綺麗事として届いたり、もしくは世捨て人みたいな表現になったりしかねないところ、Megaさんはこのアルバムでそれをヘルシーな状態のまま音にパッケージできていて。まずそこに感動しました。
「最近友達がTikTokを手伝ってくれていて、アプリを開くタイミングが増えたんですよ。そしたら、素人なのか、どこかの大手レーベルが素人っぽく仕込んでるのかわかんないですけど、似たような感じの曲で『素人が作ってみた』みたいな動画が結構あって。そういうのを観ていると、多分俺がいちばん音楽を楽しんでる素人だと思ったんですよね。こうやって一丁前にインタビューしてもらえるような感じになってるけど、『本気の素人が作ってみたよ』みたいな、それだけなんですよ」
――音楽を始めたばかりのピュアさとか、根源的な喜びに忠実であるということですよね。「Mega Shinnosukeは新たなカルチャーを作る人」みたいなイメージとかが世に出がちだけど、Megaさんとしてはただ単純に「楽しいことをやってる」「ダサいことはやらない」みたいな。
「そうそうそう。そんな、何も背負ってないですよ。僕の生活から作っているだけで、狙いがないというか。僕、このアルバム、かなり気に入ってるんですよね。呑気に作ったんですけど。見せかけじゃない才能を感じますね、僕から(笑)」
――自分で「アルバムを気に入ってる」というのは、これまででいちばん作為的なものがなく、肩の力を抜いて作ることができて、だからこそ結果的にいい音楽ができた手応えもあるということですよね。
「そう。『作ってみた』の動画を観ていると、音楽をやる理由として『音楽をやりたいから』以外のことがすごい見えるんですよ。でもいちばん大事な理由って、『好きで楽しくてやりたいから』じゃないですか。俺みたいにふざけて『イェーイ』ってやってるやつがいいもん作れちゃったら言うことないし、いちばんいいんじゃね?って。だから、衝動ですよね。『かわいい』っていうのも衝動だし」
「好きじゃないからやらない」というのが俺の美学。それを基準にしていると、どんどん僕のマインドに近い作品ができてくると思います
――“東京キライ☆”のMVも衝動の塊みたいな作品ですよね。たとえば「バズらせるためにどんなものを作ろうか」みたいな思惑からスタートした映像だったら、観る側の気持ちが冷めると思うんですけど、そうじゃなくて、ただ「頭おかしいな」っていう(笑)。「あのMVも友達と作ってるんですけど、最近よく使うワードに『これは“やり”だわ』っていうのがあるんですよ。『やっちゃってるね』っていう。MVの撮影のときも、釘が刺さってる手に血糊を垂らそうかなと思ったんですよね。でも『それ“やり”だわ』みたいな。目立てればなんでもいいというわけでもないんですよ。そのバランスが、センスかもしれないです。『やってるな』と『かましてる』はちょっと違う」
――その感覚の違いを、もうちょっと言語化してもらってもいいですか。
「ものを作る人でも、ものを売る人でも、『やっちゃってる』クリエイティブのほうが安心すると思うんですよね。でも、引き算をする勇気を持っていたほうが非の打ちどころのない作品になると思うんですよ。『こっちのほうが売れそうだからやっておこう』『売れるための努力をしたよね』となれたほうが楽かもしれないんですけど、俺的には『好きだからやっているのかどうか』がデカい。『好きじゃないからやらない』というのが俺の美学で、それを基準にしていると、どんどん僕のマインドに近い作品ができてくると思います」
――まさにこのアルバムにはMegaさんのマインドに近いものが出ていて、自分の心臓を取り出してそのまま手渡している、みたいな作品だと感じました。
「『売れてどうするんすか』とも思うんですよ、いっつも。頑張って売れてデカい会場でやっても――それができる人はもちろんすごいんですけど――それができたあとにどうなるんですかね、という気持ちがあるんですよ」
――アーティストが活動を続ける中で、「大きなステージに立つ」みたいな成功と人間としての幸せが必ずしもイコールではない、というジレンマに陥る人もいますけど、Megaさんの場合、自分にとっての幸せとは何かがすでに見えている。
「あ、それはそうです。自分の音楽に共感してくれる人がいて、それが10人であってもそんなに不幸じゃないんですよ。自分のお客さんがいるだけでわりと幸福というか。自分の音楽をやれていることのほうがいい。だからこの作品って攻めてるんですけど、自分の幸福感とか信念に対してはすっごい優しいのかもしれないです。自分がいちばん面白いと思うものを世の中に生めているから」
――だから健康的なエネルギーを感じさせる音楽になっているんだなとも思います。
「パンクバンドの起源的なことを、現代技術を駆使してやっているのかもしれないですね。当時の人も『政治が』『ドラッグが』とかいろいろ言うけど、自分たちがやりたいから衝動的にやってるわけじゃないですか。芸術って、自分たちがいいと思って、それを世の中に出したいからでしかないんですよ。今、いろんな情報がネットやメディアで見られるし、それを器用に活用すれば数字が取れちゃったりするから、俺からしたら暗黒な世界になってきていて。自分がいいと思って、『めっちゃいいんだけど、聴いてくんね?』っていう、それがやりたいんですよね」