東京事変が2枚組、全30曲収録のオールタイムベストアルバム『総合』をリリースする。本記事はそれを記念しての、1stアルバム『教育』から、一枚一枚フルアルバムを軸にひもといていったインタビュー。
大人になった今だからこそ見えてきたことや、アルバムや楽曲に秘められていたエピソード、そして完全無欠のメンバーが集結しながら、満身創痍になるほど邁進し、「解散」からの「再生」を果たした軌跡が、ここでは明かされている。もちろん、『総合』に収録された新曲“仏だけ徒歩”と“原罪と福音”についても語ってもらった。今、5人が東京事変を「再生」させた理由、そして2021年に東京事変が在る必然性が聴こえてくる『総合』のガイドとなるテキストを、ここにお届けする。
インタビュー=古河晋 撮影=内田将二
子どもだから知らないんだけど、大人ぶりたい、全部リッチに行きたいって思っていたことが、『教育』のこういう出方になったんでしょうね
――今回は、ベスト盤『総合』のリリースタイミングということで、ベスト盤にちなんで、楽曲を軸にしながら、初期のことから聞いていきたいと思っております。まず1stアルバム『教育』を改めて聴いて、バンド感がむちゃくちゃあると思いまして。椎名林檎(Vo) 今回のミックスの時、わっち(伊澤)がおもしろいこと言ってたよね。いちばん『教育』の曲が大人っぽさが出たじゃん、って。
伊澤一葉(Key) ああ、“遭難”とかを聴いて、そう思った。声や歌が特に。
椎名 大人ぶるMAXっていう時期なんじゃないか、みたいなこと言ってたよね。
刄田綴色(Dr) 2003年に録ってたから……18年前とか?
――浮雲さんは、今のメンバーとして、当時の東京事変を聴いてどんな印象に聴こえますか?
浮雲(G) うーん、どうなんでしょうね。でも、みんな尖ってたとは思いますね。もう、喧嘩みたいになってました。誰かがバランス取ろうみたいな印象はなかったですね。
――だから、伊澤さんが言った大人ぶってるように感じたというのは、それぞれが無意識に出していた背伸び感みたいなものが、当時の曲に出てたっていうことかなと。
伊澤 あと、楽曲自体が若いっていうか、迷いがないっていうか、ギューッとフォーカスされた、ひとつのテーマに対してひとつしか答えはないみたいな感じの方向性。雑念がないというか。
椎名 一筆書きっぽいっていうかね。
亀田誠治(B) 極力ダビングしないとか。一筆書きという言葉はなんとなく、みんなの中で約束事であったかも。で、その一筆のハネがおかしくなってても、それは良しとする、みたいな。
椎名 子どもだから知らないんだけど、大人ぶりたい、全部リッチに行きたいみたいに思っていたことが、こういう出方になったんでしょうね。
――続いて『大人(アダルト)』に行きたいんですけど。『大人』を改めて聴き直して、やっぱり完成度がめちゃめちゃ高いアルバムだなあと思って。
椎名 この時はうきちゃん以外、みんな怪我してたんだっけ? なんか、入れ替わり立ち替わり。次の方ー、って感じで。
亀田 怪我は僕がこのあと。この時はわっちだよね?
伊澤 (笑)神経質になりすぎて。“落日”のアウトロ弾きすぎて腱鞘炎になった。弾けねえ弾けねえって(笑)。
椎名 真剣だったんだよね。みんな、真面目だから。やっぱりテクニック的には、究めたくなっちゃうんでしょう。
亀田 でも僕は、うきちゃんとわっちの加入で、アレンジを挑戦することをはじめて知った。
――おふたりのプロ意識と個性が入ったことは重要だったんだなって思いますね。
亀田 めちゃくちゃ効いてるね。あ、でも、林檎さんそんなに僕に頼み事しないんだけど、なんかね、たぶん手紙かメッセージで、ウッドベースを弾いてほしいって。
椎名 あ、言ったかも!
亀田 エレキベースを弾き続けるこだわりがあったけど。林檎さんからラブコールじゃないけど弾いてくださいって言われて、ちょっとやってみようかなと思って。そしたらいろいろフィットして、『大人』は特に多用してますね。
椎名 “透明人間”とかね。
亀田 “歌舞伎”とか、“化粧直し”もそうかな?
椎名 それを前提に曲を書こうと思ったんだと思います。
やっぱり人の曲だと楽しいし、曲も好きだし。「楽ぅー!」みたいな。マリオでスター取って、上のほうでコインをチリリーン!チリリーン!って取ってる感じ
――次に『娯楽(バラエティ)』に行きたいと思うんですけど。実際どうだったんですか、椎名さん以外のメンバーが作曲するという作り方は。椎名 あたしは楽しかったですよ、人任せで。やっぱり人の曲だと楽しいし、好きだし、曲が。やっぱ毛色が全然変わるしね。
亀田 書きたくてウズウズとかはしなかったの?
椎名 「楽ぅー!」みたいな。
全員 ははははは!
椎名 マリオで、スター取って、上のほうでコインをチリリーン!チリリーン!って取ってる感じですよ(笑)。でも、作詞って結構難しいんだなとも思いましたけどね。
伊澤 人の曲に、ってことだもんね。
――スタジオの空気はどうだったんですか。
伊澤 ああ、『大人』とは違うのかなあ。
亀田 なんかさ、1回五反田でメシ食わなかった? ちゃんこかなんか。
椎名 え? ちゃんこ?
亀田 「みんなで考えて!」みたいな。ライブの前だっけ? 林檎さん抜き!
伊澤 え?
浮雲 噓ぉ?
亀田 「男子集まれ!」って。4人だけで。どちらかというとりんちゃん(椎名)に発破をかけられてる感じだった。「男子! しっかりして!」って。
――発破かけられて、じゃあ集まんなきゃという。
亀田 うん。指示が入って。
伊澤・浮雲 へえー。
椎名 でも、あたし以外の曲でアルバムを作ることは、ずっとやりたかったことなんだけど、キレ芸みたいな感じでオーダーしたのは覚えてる。「そんなことばっかり言ってんだったら、自分たちでやればいいじゃん!」みたいな言い方をしただろうなあとは思う。
亀田 なんかあれですよ、ぎくしゃくしてたとかっていうんじゃなくて、「これはもう男子で考えて! みんなで作るのよっ!」みたいな。
伊澤 ははははは。
亀田 (笑)先生から言われたような記憶がある。
椎名 そんなつもりないけど、でも、独特の言い方した気はします。「ねえ、書いてくれない?」みたいなふうに言った感じはしない。わりと乱暴に、「だったらやれよ!」みたいな。たぶん自分も、勇気がいったんだと思いますね。『大人』だったらこれ、『教育』だったらこうとかって、自分が作家としてコントロールできていたのが、できないのは怖いなとは思ったけど。
亀田 でも僕、“OSCA”とか“キラーチューン”は今でも、バンドマンというかミュージシャンとしての喜びを感じる。なんかねえ、若返っていくっていうか。
――“キラーチューン”の曲調って、伊澤さんがもともと別の場所でやってた感じとは違いますよね。
伊澤 ああ、全然違いました。当て書きっていうようなことをはじめてやったのが“キラーチューン”で。だから、いわゆる作曲家として、人が歌うことを想像して、その人のメロディを作りたいと思ってやりだしたのが、この時期だったかもしれないですね。
――“OSCA”は伊澤さんが“キラーチューン”を作ったのとは、また違うスタンスですよね。
浮雲 まあ、自分が歌うために作ったんで。でも、変な曲じゃないですか。広義で言ったらそうなるかもしれないけど、ポップスじゃないと思うし。それをやるのはいいなあと思いましたね。
――浮雲さんの曲を入れたいと思ったきっかけとして、“OSCA”があったんですかね。
椎名 “ミラーボール”とか“メトロ”とかも想像つかなかったけど、鍵盤もやって。どの鍵盤の音色でアプローチするのか、場合によっては“復讐”とかでギターも弾くし。だから、すごいわくわくしてて。無敵の精神状態でしたね。わっちがギターの音階の感じをおもしろくアプローチするから。“月極姫”とか、すごく好きです。
伊澤 そうそう、俺も楽しかった。うきちゃんの楽曲にアプローチするのが、めちゃくちゃ楽しかった気がします。
亀田 そう、定番じゃない和声の動きとか、リズムの動きがあって。わっちのアカデミックなものもずっと続くんだけど、うきちゃんの自由すぎる世界線みたいなものが、この時に開花したっていうか、知っちゃって(笑)。
椎名 全然違う上物のふたりが、ちゃんと助け合うというか補い合って作る感じが、あたしはたぶん好きなんですよね。
――次の『スポーツ』は、『娯楽』を踏まえて、どういうギアを入れてこうなったんですか?
椎名 エスカレートしてきた!って感じじゃないですかね。書き譜面で、わっちがおたまじゃくし(音符)を、♪トゥルルッルッ、トゥットゥットゥトゥットゥッ、トゥルルッルッ、とか細かく書いて、それぞれが練習するみたいな。
亀田 今のは“電波通信”という曲なんですけど、これのベースが書き譜で。この通りに弾いてほしいっていうふうに来て、めちゃくちゃ難しくて。今度は僕が怪我をしました。ねえ?
伊澤 としちゃんも骨折れてたよね。
刄田 うん、そうそうそう(笑)。
椎名 あたしも、「ウルトラC」のツアーはじまったら、首が動かなくなって(笑)。それではじめてぐだぐだのメンズのMCコーナーを設けて。
刄田 全然スポーティじゃないんです。