アメリカっぽいパンクの空気もあるなかで、真っ当なUKパンクみたいなことを堂々と日本語に翻訳してる姿はすごかったですよね。だから俺、ノーベル賞とかあげたい(笑)
――若い世代がどこまでTHE BLUE HEARTSというものを認識しているのかは未知数なんですが、こうやって30周年を機に正しく聴いてもらえたらいいですね。聴けばすぐに覚えられる曲であるっていうのも、ひとつすごいところですしね。

「そのキャッチーさのバランスはUKパンクだなと思う。USパンクは、ブラック・フラッグとかサークル・ジャークスだから、あまりポップ&キャッチーだと逆に怒られちゃう空気でしたからね。そういうアメリカっぽいパンクの空気も当時あるなかで、真っ当なUKパンクみたいなことを堂々と日本語に翻訳している姿は、すごかったですよね。だから俺、ノーベル賞とかあげたい(笑)。誰かライターさんも言っていましたよね、THE BLUE HEARTSって発明じゃんって」
――日本におけるパンク・ロックの発明?
「うん、その正しい翻訳じゃないかみたいなことはすごい言ってました。ピストルズ以外のパンク・バンドって、大体恋愛のことしか歌ってないし。じゃあTHE BLUE HEARTSが恋愛のことだけかっていうとそんなことないわけじゃないですか。“チェルノブイリ”もあるし、“未来は僕等の手の中”とか“ミサイル”とか、政治っぽいことをパンク・ロックにのせて歌っているということでは、正しき日本版だなっていうことは言ってましたよね。そういう意味で、THE BLUE HEARTSっていうジャンルでいいのかなって思いますね」
――トリビュート盤の収録曲については、他のバンドの曲もすでに聴きましたか?
「みんな選曲がすごいよね(笑)。グッドモーニングアメリカもなんでこんな地味な曲選んだんだろう。俺もそうですけど、みんな初期からくるだろうと思ってわざと選んだんでしょうけど(笑)。素直に“リンダ リンダ”とかやればいいのに。初期の名曲ほぼ手つかずだからね。むしろうちらがいちばん古い曲じゃねえ?みたいな、うちと民生さんくらいか」
――そのあたりの選曲理由はみなさんにお訊きしたいところですね。
「確認したいですよね。うちも、最初はひねって“ラブレター”とか、やらねえだろうみたいなのを選んでいたんですよ。バラード風なのをアグレッシヴにしようかとか言っていたんですけどね。うちは今回ミスフィッツと合体させたんですよ。UKっぽいパンクのTHE BLUE HEARTSをUSに寄せようみたいなテーマで。まあ、俺だけ通じればいいかっていうので、随所にミスフィッツのパロディも入ってるんですけど」
――そうなんですか(笑)。
「聴いても本人たち全然喜ばない感じの。一応これで、THE BLUE HEARTSは海を渡りましたみたいなイメージです(笑)。ヨーロッパからシルクロードをつたって日本に入ってきたパンク・ロックが、太平洋を渡ってアメリカに行きましたよっていうイメージですね。でも今回は面白いメンツが揃いましたね」
――世代もそれぞれなので、この30周年でより若い世代にも聴いてもらえるような作品になっているのではと思いますね。THE BLUE HEARTSの遺伝子としては、日高さんはその後現場で観ていく中で受け継いでいるなと感じられるところはありますか?
「とくにBRAHMANもそうですけど、4人組が未だに圧倒的に多いですよね。ヴォーカルと楽器隊3人のあの形がかっこいいっていうのを日本人に植えつけたのはTHE BLUE HEARTSかなとは思いますね。その4人組のかっこよさをガツンと残してるなというのは、STANCE PUNKSを観ても思ったし。RADIOTSだったりTHE BACK HORNを観ていても思う。ジャンルとか界隈関係なくね。グドモとかもギターは持っているけど、ちゃんと4人組のかっこいい歌もの感が大きいですよね。この4ピースっていうのを何十年にもわたってそう思わせているのはデカイかなと思いますよね。4人のバランス感も面白いし。例えばRCサクセションだったら(忌野)清志郎さんとか、甲斐バンドだったら甲斐(よしひろ)さんがいて、カリスマがひとりいるみたいな感じなんですけど。そのカリスマであることを真っ先に否定しているところは、THE BLUE HEARTSからなのかもしれないですよね。ヒロトさんはカリスマに思われたくないから、ダーティな感じも出してたと思うし」
――そういうバンド感、バンドらしさがある。
「そうですね。聴いた話では、KING BROTHERSのイベントにザ・クロマニヨンズが出てくれた時に、出番の30分前くらいにメンバー4人でせーので来て、みんなで一緒にウォーミングアップして、ライヴして、お疲れさまって4人で一緒に帰っていくみたいな。移動工程上の偶然かもしれないですけど、ちゃんとバンドでいようっていう努力をしている人たちだなと思いますね。たぶんヒロトさんやマーシーさんはそういうバンドマンでいることを見せるのが、エンターテインなんでしょうしね。プライベートの話は全然聞こえてこないし」
――インタヴューでもそうですしね。最近どんな曲を聴くかとか、お笑いの話などはされるんですけど、どこからこういうものが生まれているのかっていうのはお話しになってないので。
「推測なんですけど、今やジョン・ライドンとかシド・ヴィシャスのインタヴューは訊けないじゃないですか。ジョン・ライドンは生きてるけど、PILやってるからピストルズの1stを録った時の話は、きっと訊けないわけじゃないですか。あの盤を聴いて自分なりに解釈していくしかない。それに近いのかもしれないですよね。毎回が遺作になってもいい感じでやってるのかなっていう。だから、敢えていつも楽曲の説明や明言を避けているのかなと思いますよね。ウィキペディアを見れば多少、“ロクデナシ”は実体験に基づいているとかはわかったとしても、それを本人たちの口から聴いたことはたしかにないっちゃないんですよね、そんなに。そういう意味では、そこも翻訳してるのかなって思いますよね。UKパンク感を。誰が今キャプテン・センシブルにダムドの1stのこと訊くんだっていうかね。ただでさえこうやって昔のことをほじくり返されることの多い人だと思うので」
――THE BLUE HEARTSはいちばんバンドとして○周年、○周年と追いかけられているかもしれない。
「編集盤何枚目よって話ですからね。そこに協力してる俺たちも俺たちですけど(笑)。でも好きなものは好きなので。本人たちがいやじゃない限りは、やらせていただきますっていう(笑)。だから、俺はTHE BLUE HEARTSをもう一回やってほしいとは思ってないですよね。今やってもらっても、あの頃やった“人にやさしく”ではもうないし。それは今自分にBEAT CRUSADERSもう一回やってくれって言われるのと同じで。本人たちのなかできっちりケリのついているものを、もう一回やってほしいとは思ってない。大概のバンドは10周年、20周年で再結成するのも普通ですけど、そういう意味では、ザ・クラッシュとTHE BLUE HEARTSは再結成しないでほしいと思ったので、正しいありかただと思いますよ。クラッシュも結局やらなかったしね。一回、ミック・ジョーンズとジョー・ストラマーがザ・メスカレロスのステージで、“ホワイト・ライオット”だったか“ロンドンズ・バーニング”をやったのかな? そのときの写真見ましたけど、つらかったですもん。ふたりともあの時のあの細身じゃないし、ミック・ジョーンズに至ってはほとんど毛髪が残ってないし(笑)。逆にジョーの逝去直前にあった、伝説的なセッションみたいな感じでよかったですけど。だから、全然再結成観たくはないですよね。観たいやつは、THE BLUE HEARTS聴いてないんだなとしか俺は思わないです。そういうこと歌ってないんです。後ろ向きなことは一切歌ってないから」
――前しか向いてないからこそ、普遍的なものとして、今もこうして聴いていける曲でもあるんでしょうね。では、10代、20代のリアルタイムで聴けなかった世代に、敢えてこういうところがポイントだよって言うならば?
「今だからこそYouTubeで観ないでほしいですよね。まずは音を聴いてから、映像を観てほしいです。結構びっくりすると思う。俺もびっくりしましたから(笑)。え? こんなベロベロすんの?とかね。あと、ヒロトさんて声だけ聴いているともっとイカツイ、それこそ若旦那みたいなやつ出てくるのかなと思いきや、すごい細いじゃないですか。マーシーさんも声だけ聴いているとイカツイのかなと思いきや、リズム隊のほうがイカツイし。そして声が優しいっていう(笑)。声と見た目の違いが甚だしいバンドも珍しいので、敢えて映像は後回しにして、まずは音だけ聴いてほしいですね。“人にやさしく”から聴いてほしいんですよ。そういう聴き方を敢えて今したほうがいいんじゃないかな」