日食なつこ×津野米咲(赤い公園)、スペシャルリスペクト対談! 音楽論から羨望まで赤裸々対談(2)
いつやめてもいいんだ――って思ったら、すごいやめたくなくなってきて(津野)
――でも、今回のミニアルバム『逆鱗マニア』はいきなり“ログマロープ”から断崖絶壁の景色で始まるんですけども。「半年かけても曲がひとつも書けなかった時期」って一体どういうことだったんですか?
日食 いやあ、もうひどかったですね。2016年の上半期は――ちょうど1年前に『逆光で見えない』っていうフルアルバムを出したんですけど、そのあたりは実は精神的に結構落ちてて。「じゃあ、そのアルバムを引っ提げて、次にどうつなげていくのか?」っていう考えをまったくしなかったから、そこでビターッと止まっちゃったんですよ。そのせいで、曲もできないし、ライブも「今後どうしていくために、今日のライブはどういう観せ方をしたらいいか」みたいなのも全然わかんないし。「ああ、これたぶん終わったな」と思って……ほんと全部捨てたんですよ。毎晩、日本酒でヤケ酒したりとかしてたし。
津野 カッコよすぎんだよ、グレ方が(笑)。
日食 一回ひどかったのは、あまりにグレすぎて、一晩中日本酒と芋焼酎のチャンポンをやってたんですよ、部屋でひとりで。気がついたら、服着たままお風呂場でシャワー浴びながら倒れてて――。
津野 危ないよ!
日食 「あ、死んじゃう死んじゃう」って思って。で、「どうせ人としての部分まで捨ててここまで来た段階で、『次の作品はこういうテイストの曲を狙って出しましょう』とか言ってられっか!」と思って書いたのが、“ログマロープ”の歌詞と曲調なんです。断崖絶壁です私は今、っていう。
津野 私も、平気で「半年書けてない」とかあったよ、活動休止してなくても。その分、下半期で死ぬほど書いてるとか。でも、自分の人生だし、誰かのためにやってるわけじゃないから、いつやめてもいいんだ――って思ったら、すごいやめたくなくなってきて。
日食 わかる! すごいわかる、それ!
津野 頑張ってもできない時はあるんだけど、何でもいいからできた時って、ちょっとだけ救われるんですよ、内容がどうであれ。溜まってるのが形にできない時って、ほんとに重くて沈んじゃう。でもその状態をさ、曲を書く時に無理矢理ポジティブにしようとしてた時もあって。「そんなあなたでも大丈夫よ」みたいな。そうするとね、どんどん余計に重くなっていって、世と自分の誤差がヤバいことになっていく。だから、断崖絶壁なら「断崖絶壁だ!」って書いちゃうっていう。それは私も同じ手を使ってる。それは音でもどうにでもできるし。音が歌詞を救ってくれる時もあるから。
日食 思いっきり重たくて死にたい歌詞なのに、音がそれを後押しする別のエネルギーを与えてるっていう。でも、「断崖絶壁」って口当たりよくない?
津野 言葉の響きは明るいよね。ちょっとファンクだもんね。
日食 そういう、最低限「音楽になるべきお約束」の部分――まろーんとした言葉じゃなくて、ガツッとした言葉をなるべく選ぶ、っていう約束だけ今回は歌詞の部分で決めて、あとはもう、出てくるものを全部吐け! みたいな感じですね。
津野 その「出てくる」っていうのが羨ましいですよね。
日食 いや、溜まってた時期だったの。半年分溜まってた膿だから、言ってしまえば。
津野 膿を売る女? 「膿売りの女」だ!
日食 ただの妖怪じゃないですか(笑)。
津野 「うみうりの女」って平仮名で書けばかわいいんじゃない?
日食 (笑)。でも今回、一番最後の“あのデパート”っていう曲もそうなんですけど。私の地元のデパートの曲で――1番はちっちゃい頃の、5歳か6歳くらいの私の目線で、2番は地元を離れる直前の23歳くらいの私の目線の歌詞なんだけど。1番を全部平仮名で書いてて。
津野 ああ〜。私も“交信”っていう曲で、歌詞の繰り返しのところがあって。最初平仮名で、その後に漢字になるっていう。そういうふうにしようって決めて歌を録ると、なんか子供感出るよね。
日食 そうだね。でも“あのデパート”は本当に、自分のちっちゃい頃のフィルターだけを通してるので、別に感動を誘いたいとか一切なくて。実際にこのデパートは――マルカン百貨店っていうんですけど――6月になくなっちゃって。それを記録映像として誰か残さないかな?と思ったんですけど、誰も直前まで動かなそうだったので、「じゃあ私がやればいいや」と思って。そのデパートを使ってミュージックビデオを撮ろうと。その時にちょうど“あのデパート”の前身の、“GREEN FIELDS”っていう全編英語の曲があったんですけど。その英語の歌詞を全部取っ払って、そのマルカン百貨店の映像に合わせて歌詞をつけただけなので。自分の思い出だけを詰め込んだ曲なんですよね。
もうちょっと生産性が上がるんだよね。闇! 光! 闇! 光! みたいな(津野)
――“サイクル”の「本当は怖いわらべうた」感も、赤い公園の“塊”とかに通じるものがありますね。
津野 子供が残ってるよね、我々の中にずっと。「まだ子供感」というか「子供の時最強感」というか。私、子供の時めちゃくちゃ優等生で、勉強が大好きで大人しかったんだけど。図工で「富士山を描いてください」って言われて、なぜか大噴火した富士山を描いて、保健の先生にお母さんが呼び出されて(笑)。あと、ペコちゃんの服全部脱がしたことあるし、ミニーちゃんのスカートもめくったことある。
日食 それ、全然優等生じゃない(笑)。でも、好奇心が全部に勝つよね。
津野 あれから何年も経って、自分が曲を作るってなった時に、一番音楽的だったりアーティスティックだったりした感覚を持ってたのがその時期だなって思って、羨ましくなって、一生懸命思い出して書いたりするよね。
日食 それはでも、「昔は持ってた」んじゃなくて、それがあったからこその今なんじゃない? 私は勝手にそう思ってる。私も、小学校から家までの通学路が1.2kmあって、ずーっとまっすぐの道だったんだけど、そこに全部落書きして帰ってたし(笑)。
津野 子供って怖いよね。自分が嘘ついてたら絶対バレるし。大人目線で「こういうの好きなんでしょ?」って思って渡したものは絶対に好きじゃないし……これは「いつか」の話なんだけど、いつか子供の歌が書きたいの。子供の歌は絶対に日本の中で一番いい曲だから、って信じてて。
日食 津野ちゃんの子供の歌、エグそうだよね(笑)。
――でも、子供の歌ではないけど、『逆鱗マニア』のリミッターかけてない、一切打算のない歌詞のモードは、ある種子供の吐き出し方に近いですけどね。
日食 『異常透明』(2012年)とかも、根岸(孝旨)さんをお呼びしたりしてるんですけど、その時は「日食なつこの曲に対して、根岸さんが完成させた」みたいなイメージが強かったんですよ、私は何もできなかったんで。でも今回、名越さんのカッコいいギターも、BBBBの破裂するようなブラス音も、最初から私が欲しかったので……たぶん今後、アレンジを勉強して、もっともっと幅の広いサウンドを展開していこうと思えばできると思うんですけど。でも、やっぱり日食なつこであるためには、どの曲もピアノで始まってピアノに帰結する、っていうのが絶対の決め事でなければいけないし、私もそうでありたいし。もしピアノを外したアレンジをやることになったら、それはもう別名義でやろう、ぐらいの心積もりではいるので。そこのバランスの取り方は今後覚えていこうかなって思ってますね。
――今回の『逆鱗マニア』で、また全部心の中身を出し切っちゃった感じですか?
日食 いや、まだあります。
津野 まだ膿ある?
日食 膿はね、もうない。全部出した。
津野 また溜めようよ、膿。似合うからさ。死んだら困るけど、日本酒も芋焼酎も似合うし、服着たままシャワー浴びてるのも似合う! (笑)。生きてる限り大丈夫だよ。
日食 でも、今回思ったね。「一生こういうこと繰り返しながら生きていくんだろうなあ」って(笑)。上半期の苦しい状態を抜けた後に、すごく調子のいい下半期があったから、じゃあそこから右肩上がりに行くか? って行ったら、そうでもないと思う。
津野 でも、何回かやっていくうちにたぶん、そのスパンが短くなっていって、もうちょっと生産性が上がるんだよね。闇! 光! 闇! 光! みたいな(笑)。
日食 ああ、早めに落ちて早めに上がるんだ(笑)。
津野 そうすると、上がることを知ってるから、安心して落ちられる。
日食 そこもちゃんとわかってるんだ。さすが! (笑)。