解き放たれた音、痛く苦しい情愛

毛皮のマリーズ『ティン・パン・アレイ』
2011年01月19日発売
ALBUM
毛皮のマリーズ ティン・パン・アレイ
とんでもないアルバムだ。志磨遼平が背徳薫るロックの音像越しに眺めてきた、セルジュ・ゲンズブールの映像世界のような灰色の退廃に満ちた都市の日常を、ストリングスやクラリネットやペダル・スチールやエレピといった超ハイ・クオリティなセッション・ワークを通して具現化した結果、ロックもデカダンもアヴァンギャルドも踏み越えた音が鳴ってしまった。ただひたすら強く人を愛すれば愛するほど統制を欠きイビツさと痛みを増してしまう僕やあなたの心を、この上なく美しく狂おしく描ききってみせた。そういう作品だ。フィードバック・ノイズとともに夜明けを告げる1曲目の“序曲(冬の朝)”から、流麗なストリングスと絡み合いつつ《愛しきかたちないもの 僕らはそれを――“東京”と、呼ぼう》と歌う“弦楽四重奏曲第9番ホ長調「東京」”まで……「4人のアンサンブルで完結した世界を描く」というバンド幻想すらかなぐり捨ててでも、志磨は己の胸を締めつける愛と孤独に真っ向から向き合い対象化しなければならなかった。凍てつく冬空のような空気感の向こうに、彼の覚悟が輝いている。(高橋智樹)
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