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2023年の締めくくりとしてクリスマスイブにリリースしたのは、失恋の痛みを描いた切ないラブバラード。彼女のソングライティングの特徴のひとつに、現代の若者が日常で使用するワードを用いながら主人公の心に秘めた本音を綴ることが挙げられるが、今作ではその要素がより効果的に響く。この楽曲には最愛の存在である《君》からの愛情を感じられない《私》の悲しみが切々と綴られている。元来人間は自分から与えるだけでは疲弊してしまう生き物だ。恋愛に限らず幸福を得られないがゆえに不安に陥り、寒空の下ひとり華やいだ街を歩きながら、すれ違う人々の笑い声に心を乱された経験を持つ人も少なくないだろう。悲観的な想像に打ち勝とうと必死に《でも大丈夫。/大丈夫。》と言い聞かせ、自分の尊厳を守ろうとする主人公の姿は、苦悩の渦中にいる人々に力を与えてくれる。アコースティック色の強いサウンドスケープ、涙を堪えるような繊細な息遣いのボーカルも、冷えた心を溶かすようにあたたかく柔らかい。(沖さやこ)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年2月号より抜粋)
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