2月の日本武道館公演を成功させ、次の地平へ向けて大きな一歩を踏み出したSaucy Dog。今回の新作『レイジーサンデー』（けだるい日曜日）は、その物憂げなタイトルとは裏腹に、バンドの更なるブレイクスルーを確信させてくれる痛快な一作となっている。先行配信された“sugar”と“週末グルーミー”がまさにそうであったように、一つひとつの言葉が、メロディが、リズムが、全方位へ向けて広く開かれている。そして、今作のそうしたポップな佇まいは、3人が大切に育んできた唄心をさらに強く輝かせている。特に“東京”は、理想と現実の狭間で葛藤するリスナーの日常を優しく肯定する大名曲だと思う。《はじめて正しい事ばかりが／正義じゃないのが分かってきたんだ》という一節が象徴するように、石原慎也（Vo・G）が歌うのは決して「正しさ」だけではない。しかし、3人が奏でる衒いのないストレートなバンドサウンドは、時に「正しくなさ」さえも温かく包み込んでしまう。誠実な唄心を響かせるSaucy Dogのポップミュージックは、これからさらに多くの人々の人生を肯定し、彩っていくはずだ。（松本侃士）

『ROCKIN'ON JAPAN』10月号より