神も支配者もいない世界へ

ガービッジ『ノー・ゴッズ・ノー・マスターズ』
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ALBUM
ガービッジ ノー・ゴッズ・ノー・マスターズ

ガービッジの5年ぶり7作目のアルバムから最初に聴こえるのは、けたたましいスロット・マシーンの音。前作『ストレンジ・リトル・バーズ』のアトモスフェリックかつロマンティックな志向から一転、英米ダブル国籍の4人組は、あれ以来闇が深まるばかりの世界の有り様を憂い、インダストリアル・ロックの攻撃性とニュー・ウェイブの華を、彼らならではのシネマティックなダーク・ポップに結晶させている。

出発点は恐らく、プロダクション面でも本作の路線を予告していた、2017年のシングル“No Horses”だったのだろう。あの曲でディストピアの到来を警告していたシャーリー・マンソン(Vo)は、冒頭の“The Men Who Rule the World”で、貧困と差別と環境破壊によって荒廃した世界を俯瞰。“Waiting for God”ではダイレクトに人種差別を糾弾し、“Godhead”では逆に皮肉を込めてジェンダーを語るなど、マスキュリンな破壊的権力に反旗を翻す。題材を一つひとつパーソナルに咀嚼し、理性とエモーションのバランスを取りながら社会批評を展開する、この人の説得力は圧巻だ。

歌い手としても然りで、威嚇したかと思えば内省に耽り、或いは誘惑して、幾つものペルソナを演じ分ける。アルバム後半には“Anonymous XXX”を始め、そんな役者魂を全開にした物語仕立ての曲が並び、しばし非日常に逃避。シアターとしてのポップ・ミュージックもガービッジが得意とするところだが、こちらの飛躍ぶりも目覚ましい。

そして、表題曲で再びリアリティに戻ってきた時には、まさに“The Men Who〜”の対極にあるポジティブな未来を夢見ている。そこに辿り着くために、今後ゆっくりとリブートされていく世界が直面するだろうクエスチョンが、ここでは幾つも投げかけられている。(新谷洋子)



ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』7月号に掲載中です。
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ガービッジ ノー・ゴッズ・ノー・マスターズ - 『rockin'on』2021年7月号『rockin'on』2021年7月号

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