前作『Days Go By』から実に9年。その間にバンド自身も「レーベルの移籍」、「グレッグKからトッド・モースへのベーシスト交代」という変化を経てはいるし、状況もコロナ禍によって一変してはいるものの、笑い飛ばしきれないほどシリアスな世界に渾身のパンクで対峙し揺り動かしネガポジ変換していくオフスプリングのアティチュードは、今作『Let TheBad Times Roll』においても痛快なくらいに首尾一貫した強さに満ちて轟いている。
“Come Out And Play”系の必勝ポップ・アレンジを「悪しき時代」を告発するアンセムとして爆発させてみせるタイトル・チューン“Let TheBad Times Roll”にも象徴されている通り、今作において彼らの言葉の銃口が狙い撃つのは「今ここで壊れゆく世界」そのものだ。
アメリカのみならず世界中に広がっている分断と軋轢を「ここはユートピアじゃない」とダイレクトに喝破するオープニング・ナンバー“This Is Not Utopia”。パワフルなコーラス・ワークとアグレッシブなアンサンブルのドライブ感が、重戦車の疾走の如きスリルを喚起する“Behind Your Walls”。ロックダウンの孤独と葛藤を、躍動感あふれるビートとメロディに託した“Breaking These Bones”。97年リリースの4thアルバム『IxnayOn The Hombre』収録のハード・バラードを、近年のライブでも披露されている静謐なピアノ・アレンジへと生まれ変わらせた"Gone Away"……。
若かりし頃の狂騒感をオフスプリングならではのウィットと一抹の哀愁ともに追想してゆくロカビリー調ナンバー“We Never Have Sex Anymore”のような楽曲も含みつつ、9年ぶりとなるこの新作でオフスプリングが体現しているのはまさに、彼らのアイデンティティとも言うべき最大の原動力=「永遠に不屈の初期衝動」のダイナミックな凄味だ。
『Days Go By』期よりも格段に獰猛に奮い立つ、剥き身のパンク・サウンド。世界が正気と狂気の狭間をダッチ・ロールしている混沌の時代に、真っ向からエモーションの軸を打ち立てていくような、この上なくラフでタフで、それゆえに最高にハイパーな音楽表現。
あらゆる音楽形態がサブスクリプションの大海の中に並列に存在し、ジャンルやシーンといった概念が雲散霧消した、この2021年という状況下において、アルバム・デビューから30年以上のキャリアを経た今なお、いや今こそパンクの最前線を爆走するオフスプリングの音は、ある種のダンディズムすら帯びて響く。いつの日か、今作の楽曲をライブで体感できる日を心待ちにしている。(高橋智樹)
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