エイフェックス・ツインことリチャード・D・ジェイムスは、AFX、コースティック・ウィンドウなど多数の名義を使ってきた。なかでもポリゴン・ウィンドウは、彼の足跡において目立つ名前になっている。
テクノの名門ワープのコンピ『アーティフィシャル・インテリジェンス』(=人工知能。1992年)に、ザ・ダイス・マン名義で“ポリゴン・ウィンドウ”が収録された。同曲を冒頭に配置し、ポリゴン・ウィンドウとして発表したのが『サーフィン・オン・サイン・ウェイブ』(1993年)だ。それは、ダンスのためだけではない知性的なテクノ、ワープが提唱したエレクトロニック・リスニング・ミュージックのコンセプトを象徴する作品になった。今回の再発は、アルバム未収録だった5曲を加え、ポリゴン・ウィンドウの全曲を集めた完全版である。
多くは、穏やかな音色+リズムでできている。だが、メタル・パーカッションが鳴り響く曲、逆にリズムが後景に退き風のような音色が続く曲もある。彼はアンビエント・ミュージックの傑作を残す一方、ドリルンベースと呼ばれるノイジーな方向でも革新的だった。その意味でアンビエントとノイズが同居した『サーフィン・オン・サイン・ウェイブ』は、彼のふたつの嗜好をのぞかせた内容だった。
ジャケットは本人が育ったコーンウォールの写真であり、この地方の港の名をとった“ポーツレス・ハーバー”、母校に由来する“レッドルース・スクール”も収録している。だが、本人の顔をジャケにした後の作品が彼の心を表現していなかったように、本作も郷愁がテーマだとは思えない。彼はなにを考えているのか、デザインや曲名がむしろ謎を深めている。リスナーはただ、選ばれ洗練された音を楽しめばいいのだ。(遠藤利明)
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