世界が変わる、チャリティも変わる

V.A.『ワン・ワールド:トゥギャザー・アット・ホーム』
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V.A. ワン・ワールド:トゥギャザー・アット・ホーム

日本時間4月19日、レディー・ガガのキュレートで開催された「One World: Together At Home」。新型コロナウイルスの治療に携わっている医療従事者への支援を目的とした同イベントは、WHOとグローバル・シチズンが主催で入った公的意義の強いチャリティで、大物アーティストが次々に参加した。出演交渉の段取りの大半は省略され、瞬く間に錚々たる面子が集まったスピード感と機動力に、ステイ・ホーム」の逆説的な可能性を示したという意味でも、世界中が途方に暮れていた4月半ばのあの段階で、大きな希望を感じられたイベントだったと言っていいだろう。YouTubeやTwitterでの配信はもちろん、Amazonプライム・ビデオやHuluのような有料動画配信サイトでも、本イベントは無料配信された。また、SpotifyやApple Musicは「One World」のストリーミング収益を寄付するとしている。日本でも異例の地上波放送が実現したが、基本的に全てがネット上のリモートで完結したイベントとして、過去最大規模だったのは間違いない。

古くはジョージ・ハリスン主催の『バングラデシュ・コンサート』(1971)からご存知『ライヴ・エイド』(1985)、最近でも『ワン・ラヴ・マンチェスター』(2017)など、過去の大規模チャリティ・ライブは「世界はひとつ」だという連帯を示す上で実際に何万、十数万という人々が一箇所に集った事実が重要で、距離や時間の制約を克服してアーティストが(時にはプライベート・ジェットで)馳せ参じるヒロイズムもまた、チャリティの気運を盛り上げてきた。それを思うと、どこにも出かけず、群衆の体温を感じることもなく、閉じこもった部屋の中でそれでも連帯を、今まで以上に世界は本当に繋がっているんだという実感を得られた今回の「One World」は、ライブ・チャリティの歴史的転換点だった。それは現在のパンデミックが収束した後に、チャリティのフォーマットの主流として確立されていくはずだ。

現在、各種ストリーミングで聴くことができるこの音源集は、「One World」当日のコンサート、及びプレイベントに出演したアーティストのほぼ全てのパフォーマンスを網羅した79曲で、全てのパフォーマンスはローキーなアンプラグド・スタイルだ。オープナーはイベントの開幕を告げたガガによるナット・キング・コール“スマイル”のカバー。トニー・ベネットとの一連のコラボを思い出すようなクラシカルなジャズ・ピアノに乗せて《傷ついても笑おう、曇り空だって君なら切り抜けられる》と歌うその歌詞も、チャリティの幕開けに相応しい。当日配信で「我々には強力なヘルスケア・システムが必要なんだって、僕らの政治家たちに訴えよう」と“レディ・マドンナ”を歌う前に語ったポール・マッカートニーにしても、最後に医療従事者への感謝を伝えたリゾにしても、彼らの部屋から発信されるメッセージは飾り気なく実直で温かい。それにしてもリゾの“ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム”(サム・クックのカバー)は素晴らしい。彼女の奇を衒わない真っ直ぐでパワフルな歌声を聴くと、今求められているのは日々をポジティブに反転させる歌なんだとつくづく思う。

4人のリモート・セッションが話題を呼んだザ・ローリング・ストーンズの“無情の世界”も必聴だ。常日頃から「3人に合わせる気がなさそうなのに、何故か合ってる」キースのギター・プレイはリモートでもその奇跡っぷりを発揮しているし、チャーリーがノリノリでエア・ドラムしていたことを思い出して聴くとさらに味わい深い。ガガ、セリーヌ・ディオン、ラン・ランらによる“ザ・プレイヤー”のコラボも、言われなければこれが各自の自宅で別録したローキー音源を重ねただけだとは気づかないかもしれない。一方、ビリー・アイリッシュ&フィニアスは自宅から兄妹揃って“Sunny”をプレイ。アナログ・シンセの甘やかな響きが巣ごもりのムードにぴったりだ。噂のカップル、ショーン・メンデスカミラ・カベロも一緒に“この素晴らしき世界”を披露。配信映像で寄り添い合ってピアノの前に座るふたりは、さすがに絵になっていました。

なにせ79曲あるので挙げていくとキリがないが(《もう無邪気じゃいられない》と歌うビリー・ジョーの“ウェイク・ミー・アップ・ホウェン・セプテンバー・エンズ”や、エディ・ヴェダーのバロックすら感じさせる“リヴァー・クロス”あたりも出色)花柄のラブリーな壁紙の部屋でひとりグランド・ピアノに向かいテイラー・スウィフトが歌った“スーン・ユール・ゲット・ベター”は間違いなく本企画のハイライトだった。ガンで闘病していた母に向けて祈りにも似た気持ちで《すぐに良くなるから》と歌ったテイラーのパーソナルなメッセージは、今では私たちひとりひとりに向けられているのだ。 (粉川しの)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』7月号に掲載中です。
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V.A. ワン・ワールド:トゥギャザー・アット・ホーム - 『rockin'on』2020年7月号『rockin'on』2020年7月号
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