2014年にジャック・ブルースが逝き、昨年はジンジャー・ベイカーまで亡くなった。エリック・クラプトンは今年2月にベイカーの追悼公演を行い、彼ら3人で生み出したクリームの曲を演奏した。その報道に接した直後にこの『グッバイ・ツアー - ライヴ1968』を聴き、時の流れを思ったものだ。4枚組ボックス・セットに1968年のラスト・ツアー4ヶ所のライブが収録されている。全36曲中、未発表音源が19曲あり、映像作品『クリーム・フェアウェル・コンサート~1968 ロイヤル・アルバート・ホール』の9曲も初CD化である。この時期のクリームは、やはり凄まじい。長いインプロビゼーションを繰り広げるなかでギター、ドラム、ベースの一人ひとりが、演奏で激しく自己主張する。ソロが3つ重なるような状態で今にもバラバラになりそうな瞬間もありながら、それでもしっかり結びついている。彼らの熱いサウンドが、ハード・ロックの源流にもなったのだ。
ロバート・ジョンソンの名曲“クロスロード”のカバーに顕著な通り、クリームはブルースを発展させる形でロックの明日を見出した。後にソロになったクラプトンは、渋い大人のアーティストとみられるようになる。過去にさかのぼり、自身の音楽のルーツであるブルースをリスペクトする姿勢が、渋いイメージを作った。だが、若かったクリーム時代は、伝統を踏み台にして未来へ飛びだしていったのだ。ブルースをもとにしたロックという点は同じでも、かつてとその後では方向性が逆だ。
考えてみれば、ブルースを壊しそうなほどの荒々しさがあったからこそ、クリームは新たな道を切り拓けた。それを可能にしたのは、クラプトン、ブルース、ベイカーの3人の奇跡的な出会いだった。 (遠藤利明)
各視聴リンクはこちら。
ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』4月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。