“ニュー・アメリカーナ”の曲名が象徴的だったように、デビュー時のホールジーは、新世代代表として注目された。精神性ではヒップホップやロックから影響を受けていたものの、それらのジャンルが「男の社会」として成立しているゆえにスタイルをなぞることはせず、自らはポップな音楽性を選んだ。これは2010年代に意識的だった女性アーティストの幾人かに共通してみられた傾向で、ホールジーは成功例のひとりだった。
『バッドランズ』ではディストピア・ファンタジーを語り、『ホープレス・ファウンテン・キングダム』ではシェイクスピアをモチーフにしたビデオを作ったが、サード・アルバム『マニック』は、これまでと趣が違う。彼女は本名のアナグラムである「Halsey」を芸名にしたわけだが、新作は本名の「Ashley」をオープニングの曲名に使っている。過去のアルバムがコンセプチュアルだったのに対し、今回はもっとパーソナルな領域に踏みこんだ内容なのだ。
ホールジーはこれまでのキャリアで、ザ・チェインスモーカーズ、ジャスティン・ビーバー、ポスト・マローン、BTSなど多様なアーティストとコラボしてきた。『マニック』にもBTSのSUGA、アラニス・モリセット、ドミニク・ファイクがゲスト参加している。サウンドとしては、ヒップホップ、ロック、カントリーなどを溶かしこんだエレクトロ・ポップだ。
とはいえ、コラボ経験で培った豊富な要素を含みながらも、アレンジは整理されている。なかでも、先に発売されシングル・ヒットした“ウィズアウト・ミー”や“グレイヴヤード”など、ネガティブな感情を扱った曲が印象的だ。キャッチーなポイントがありつつ、痛みを抱えて生きる姿が描かれ、歌がしみるアルバムになっている。(遠藤利明)
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