デビューと共にサザン・ブルーズ・ロックのモダンな解釈で旋風を巻き起こし2作目でグラミー受賞および全米1位まで達成したアラバマ・シェイクス。そのフロント・パーソンにしてカリスマの塊=ブリタニー(Vo/G)が早くもソロに乗り出す。
ASのザック(B)にロバート・グラスパーやネイト・スミスら熟練勢を迎えたバンドが本作向けに編成され、『サウンド&カラー』に続きショーン・エヴェレットがミックス他で参加していることからも音楽的には『サウンド~』で見せた実験性/拡張性を掘り下げる方向性だ。彼女の声にはアメリカ南部の肥沃なグルーヴが宿っているし、たとえば大先輩に当たるシスター・ロゼッタ・サープのように、その美を素のまま提示する正攻法なアプローチもありだったと思う。しかし冒頭から流れ出すハイライフ・ギターのファンキーな綾織り、シルキーで包み込むようなメロディとディストーションのスリリングな融合、ファルセットの官能からディープな低音まで駆使した歌唱、ストリングスやハープ・等、時にサイケですらある、めくるめく音世界はプリンスの密室性と奔放な感性に多くを負っている。それだけプライベートで息吹の伝わる作りと言えるが、AS1枚目は文字通りのスモール・タウンに生まれ育ち、そこから脱出しようとする若人の物語であり、セカンドは世界を旅したことで目にした様々な音や色彩を反映していた。そんな風に「外」を志向したフェーズを経て、10 代で亡くなった姉の名前をタイトルに冠した本作で彼女は初めて自身の内面に向かっている。様々な心の傷を明かし、それを克服しようとするひとりの人間の真摯な思い(⑦⑨はとりわけ感動的だ)と勇気の詰まったこのアルバムは、彼女のアーティストとしての見事な一里塚だ。 (坂本麻里子)
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