昨年から今年にかけて発表してきた連作EPをまとめた本作のタイトルは、新聞論評や哲学書の題名めいていて今の混沌とした世相にぴったりだと思う。ポリティカルな感慨をこめた④を始めとして楽曲のそこここに「現実」に対する失意は影を落としているものの、ソウル/ディスコ/シンセ・ポップ系のダンサブルな軽快さを主体とする内容は悲嘆よりオプティミズムを残す。と同時にカントリーやボッサ、サイケ、ガール・グループ、サントラを始めとする幅広い60年代サウンドが有機的かつ巧みにブレンドされてもいて、そのオープンかつ意欲的な実験性は前向きな印象をもたらすはずだ。
本作に通底するテーマに「時間の経過」「回顧」があり、アルバムとしては10枚目/ジープスター期=バンドとしての最初のピーク時から約20年というタイミングからすればそれは納得だ。久々に地元グラスゴーに戻って録音した自主プロデュース作である点も、ひとつの原点回帰を感じさせる。しかしそれが閉塞感やマンネリに陥ることなく瑞々しいポップ・ソングの数々に結実しているのは、常緑を目指すこのバンドの強い姿勢ゆえだろう。(坂本麻里子)
心には若さを、唇には歌を持て
ベル・アンド・セバスチャン『ハウ・トゥ・ソルヴ・アワ・ヒューマン・プロブレムス』
発売中
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