現在はLAに活動の拠点を置くサウス・ロンドン出身のサウンド・クリエイター。本作は2枚目となるニュー・アルバムになる。前作『トレマーズ』から約3年の間にはホンネやアクアラングのリミックス/プロダクションでもピック・アップされたソンだが、本作はこれまで以上に彼の「ヴォーカル」にフォーカスした仕上がりに。イマジネイティヴで洗練されたビートやトラックメイクは健在ながら、余白を活かした音作りはミニマルな手触りを与え、言うなれば、彼の「ソングライター」的な素養を際立たせる構成が選び取られている。オープニングを飾るグリッチーなR&B“ハード・リカー”、鍵盤に身を委ねるような官能的なソウル・バラード“レネン”にそれは象徴的で、本作は彼の音楽家としての作家性をより深く掘り下げてみせたアルバムと言っていいだろう。そうした背景には、このブランクの間に結婚し、子供を授かることになった私生活上の変化も影響しているらしく、現在の彼が前作とは異なる境地に至っていることがその音楽からは伝わってくる。白眉は、トム・ヨークのソロも連想させるアブストラクトな“フォーリング”。(天井潤之介)