雄大、なんていう言葉が彼女に似合わないのは承知しているが、この新作を聴いていると自然とそんな言葉が浮かんでくる。これほどのスケール感はハズレなし、秀作揃いの彼女の作品でも初めてじゃないだろうか。戦争を繰り返してきた祖国をテーマとした11年の『レット・イングランド・シェイク』は彼女の新しい側面を打ち出していたが、続く久々の新作はアフリカのコソボ、中東のアフガニスタン、そしてアメリカのワシントンDCを旅した時に書いた曲をロンドンのサマセット・ハウスに作った特設スタジオでレコーディングしたもので、その制作過程を公開したことでも話題となった。
例によってジョン・パリッシュやフラッド、さらにおそらくミック・ハーヴェイらをパートナーに固められたサウンドは、シンプルに彼女の伸びやかな歌声を浮かび上がらせる。紛争の地で五感を全開にして感じた思いを素直に音化することで多くの映像が脳裏に表れ、良質なロード・ムーヴィーを体験しているような感覚を覚える。うまく他民族の音楽要素を組み入れるあたりはヴェテランならではだし、後半どんどん冒険的になっていく手際も鮮やか。(大鷹俊一)
PJ版ロード・ムーヴィー完成
PJハーヴェイ『ザ・ホープ・シックス・デモリッション・プロジェクト』
発売中
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