ボールズのおもしろいところは、瑞々しくてスウィートなサウンドと、少年のような朗々とした歌声の間から、ロジカルで冷めた視線が垣間見えるところだと思う。《その気になれば何処にだって行ける/本当に大事な物なんてここにはないし》(“SING A SONG GIRL”)と歌うのは、彼らの音楽ははじめから何もない、まさにこの時代の現在地から鳴らされているからだ。泡の弾けるサイダーは甘くぬるい水になり、夏の匂いは溶けて消えてしまった――その、ぼんやりと淡く、でも確かに存在する虚無感が、はっきりとした輪郭をもって胸に迫ってきて、ノスタルジーを煽られる。しかし、それだけで終わらないのが今作であり、ボールズだ。憂鬱も幸福も、甘い夢も懐かしい記憶も、私たちのいる「ここ」には存在しない。それを知っているからこそ、退屈な今を抜けだしてこの先へと駆け出していけるのだ。その潔い割り切りや、ドライな諦念が、今を生きるしたたかさとして息づき始めている。(若田悠希)
何もない時代の新しいセンス
ボールズ『スポットライト』
2014年07月09日発売
2014年07月09日発売
ALBUM
ボールズのおもしろいところは、瑞々しくてスウィートなサウンドと、少年のような朗々とした歌声の間から、ロジカルで冷めた視線が垣間見えるところだと思う。《その気になれば何処にだって行ける/本当に大事な物なんてここにはないし》(“SING A SONG GIRL”)と歌うのは、彼らの音楽ははじめから何もない、まさにこの時代の現在地から鳴らされているからだ。泡の弾けるサイダーは甘くぬるい水になり、夏の匂いは溶けて消えてしまった――その、ぼんやりと淡く、でも確かに存在する虚無感が、はっきりとした輪郭をもって胸に迫ってきて、ノスタルジーを煽られる。しかし、それだけで終わらないのが今作であり、ボールズだ。憂鬱も幸福も、甘い夢も懐かしい記憶も、私たちのいる「ここ」には存在しない。それを知っているからこそ、退屈な今を抜けだしてこの先へと駆け出していけるのだ。その潔い割り切りや、ドライな諦念が、今を生きるしたたかさとして息づき始めている。(若田悠希)