クリス・コーネルの娘、リリーが毎週豪華なゲストを迎えメンタルヘルスについて取材する「マインド・ワイド・オープン」、エディ・ベダーがクリスとの貴重なエピソードを語る

クリス・コーネルの娘、リリーが毎週豪華なゲストを迎えメンタルヘルスについて取材する「マインド・ワイド・オープン」、エディ・ベダーがクリスとの貴重なエピソードを語る

サウンド・ガーデン/オーディオ・スレイヴのクリス・コーネルの娘、リリー・コーネル・シルヴァーが、クリスの誕生日の7月20日、自身のインスタグラム上で取材シリーズを開始した。

「マインド・ワイド・オープン」という名前のシリーズ(https://mindwideopenproject.com/)で、毎週リリーが、数々のゲストを迎えてメンタルヘルスについての話を訊く番組になっている。

メンタルヘルスや心理学の専門家だけでなく、ミュージシャンのゲストも登場。これまでにガンズ・アンド・ローゼズのダフ・マッケイガンとパール・ジャムエディ・ヴェダー、ファンタスティック・ネグリートらが出演している。

最も視聴されているのは、エディの回だ。テンプル・オブ・ザ・ドッグのアルバムで、クリスと“Hunger Strike”というグランジ時代最高のデュエット曲を歌ったエディは、友人の娘の取材だからこそ語れる本音を、優しい口調で語っていた。


エディが最初に振り返ったのは、彼が忘れることのない20年前の事件。2000年6月30日、パール・ジャムがヘッドライナーを務めたデンマークのRoskilde Festivalで、9人の観客が亡くなった。

多くの人が知らなかったエピソードだと思うが、エディはそのステージに上がる直前に、電話でクリスの娘リリーが生まれたことを知り、メンバー達と嬉し泣きをしながら抱き合ったという。「それから40分後に、あの酷い出来事が起こった」と、エディは俯いた。
 
事件の後、体を丸めて横たわるだけになっていたエディーを励ましたのは、バンドとして同じ悲劇を体験したザ・フーピート・タウンゼントとロジャー・ダルトリーで、「なぜこれが俺達に起こったのか理解できない」と言う彼に、ピートは「お前ならこれに対処できるからだ」と言い聞かせたと言う。「彼は俺をしっかりさせてくれた。大事なのは、(起こった出来事に)反応するんじゃなく、応答するってことだったんだ」。

それ以前の90年代のエディが悩みなく過ごしていたかといえば、そうではなかったことも明かされた。

「ダフも同じことを言ってたけど、夢が叶って、ツアーに出て、大好きなメンバーと一緒にプレイして、人々がショウに来てくれて、音楽を好きになってくれて、銀行口座が持てるようになって、素晴らしいことが沢山起こってて、そのハイの頂点が、最高に辛い時期の一つになる。

俺達は最高に幸せでいるはずの状況にいたのに、そうではなかった。その後でロスキルドが起こって、想像をはるかに超える酷いことで、厄介な、厄介な時だった」


2017年5月17日のクリスの死後、エディはクリスについて取材で語らなかった。彼とパール・ジャムは、クリスが死亡した年の翌年1月16日にロサンゼルスのザ・フォーラムで行われた追悼コンサートにも参加しなかった。「彼は兄弟のような存在だった」とエディがリリーに語ったことからも分かるように、彼らは本当に親しかったからだ。

クリス・コーネルの娘、リリーが毎週豪華なゲストを迎えメンタルヘルスについて取材する「マインド・ワイド・オープン」、エディ・ベダーがクリスとの貴重なエピソードを語る

サウンド・ガーデンが『バッドモーターフィンガー』を、パール・ジャムが『Ten』を発表した当時、彼とクリスは、二人でよく山にハイキングに出かけていたという。

「君のお父さんは自然の中にいるのが好きだった。君のお父さんと、アートと音楽について話した。(音楽は)解放なのか、あるいはエネルギーを得たり、マインドをクリアにしたりするホメオスタシスの場所なのかってことを話したよ。

君のお父さんの書く歌詞にはダークなものがあったし、カート(・コバーン)の歌詞、レイン(・スタンリー)の歌詞にも、ダークな歌詞があった。彼らは『ダークな曲を書くふりをしてみようか』って曲を書いたんじゃない。全員にとって、それがリアルだった。

でも西海岸北部の音楽が注目されるようになったら、ダークなグランジ・バンドがからかわれるようになってね。俺は、それを自分のことのように受けとめたよ。人々が彼らを好きになった、必要としていた理由は、そこだと思うからさ。『彼らは俺が言いたいことを話してる、同じことを俺も感じてる』って」

 
そう言った後、エディはビリー・アイリッシュが大勢の人々に聴かれていることを挙げ、『俺達のファースト・アルバムを思い出した。“このアルバムには悲しい曲が入ってるから、ちょっと気が滅入るよな、何百万人もの人達がこれに共感してるって”って思った(笑)。でも、それが誰にとってもヘルシーなことだったんじゃないかと思うんだよ』と振り返った。

クリス・コーネルの娘、リリーが毎週豪華なゲストを迎えメンタルヘルスについて取材する「マインド・ワイド・オープン」、エディ・ベダーがクリスとの貴重なエピソードを語る

2007年のソロ2作目『キャリー・オン』発売前の『ロッキング・オン』の取材で、クリスはエディと同じようなことを語っていた。
「子供の頃、それにサウンド・ガーデンの時も、俺はムーディーで憂鬱な曲を沢山聴いていた。そういう曲を聴いて、俺は落ち込むんじゃなく、逆のことを感じてた。『俺みたいに感じている人がいるんだ』って思えた」
 
リリーは、エディの言った通りクリスにとって自然の中にいることが大きな対処メカニズムになっていたと振り返り、彼女自身はエディに教わったサーフィンが役立っていると語った。そして、エディの困難の対処法を尋ねた。

「やはり曲を作ることだと思う。少なくともその経験から何かを得ようとするか、自分のために覚えておこうとする。そうすれば、いい歌詞が出てくるかもしれないし、普遍的なメッセージの賢明な歌詞になるかもしれない。より深く内面に入っている時は、いい曲が出てくるものだからね。

もしダークな所にいるなら、何か書こうとしてみるといいかもしれない。そこはいいものが出てくる場所だから。曲を書きたいという目的で、無理にダークな場所に身を置こうとする必要はないよ。でも、すでにそこにいるんなら、何かを作るといい。

俺はタイプライターが好きだし、ノートと紙が好きだし、ただ楽器を演奏するとか、ウクレレもいいと思うよ、ハッピーな音色の楽器だからね、うつから脱出できると思うよ。人々は何かを発明する必要があるけど、新しい方法が見つかるかもしれないね。

シンプルな方法としては、ヘッドスペースっていうメディテーション・アプリもあるし、個人的には、海の中かその傍にいることが、最大の対処法の一つだよ。でも、誰もが海の傍に住む幸運に恵まれているわけじゃないからね。トライし続ける限り、良くなっていくと俺は思う。悪いことは突然どこからともなく降りかかる可能性があるけど、同じようにいいことも起こるんだからね」


「マインド・ワイド・オープン」を立ち上げたリリーは、別の回で「今は誰もがコロナ禍によってトラウマを抱えている」と指摘していた。これまで心の健康に目を向けたことのなかった人達もメンタルケアについて学ぶ必要が出てきた現在、リリー・コーネル・シルヴァーの活動はこの上なく意義があると思う。(鈴木美穂)
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