去る4月3日、ティム・クリステンセンのアコースティック公演を観た。ディジー・ミズ・リジーのフロントマンである彼のソロ・ライブが、ここ日本で実現するのは初のこと。会場となったクラブチッタ川崎は、平日だというのにほぼ満席という盛況ぶり。着席形式による静かなライブだったが、完全にティムの単身によるギター演奏と歌だけというシンプルきわまりない形態だからこそ、この人物のソングライターとしての資質の高さ、演奏と歌唱の確かさ、そして音楽に向き合う真摯さをいっそう強く感じさせられた。オーディエンスの音楽への集中度の高さについても同様で、ティム自身も公演翌日、「音楽をきちんと聴こうとしてくれる日本の観衆が大好きだ」と語っていた。
演奏内容の軸となったのは、彼がこれまでに発表してきたソロ作品群からの楽曲たちだったが、アンコールも含めて約90分に至ったショウの随所にはディジー・ミズ・リジーの楽曲も組み込まれ、ライブ演奏は初だという新曲“Silver Lining”も登場。さらにはビートルズ・メドレーや、彼自身が8歳の頃に作ったという若気の至りどころではない楽曲も披露され、シンプルではありながらも盛りだくさんな印象の伴う満足度の高いライブとなった。
筆者の取材時、ティムはごく近いうちにディジー・ミズ・リジーとしてスタジオに入る予定があることを認め、幾度かに分けてのセッションを重ねながら『フォワード・イン・リヴァース』(2016年)に続くニュー・アルバムの制作に取り組んでいくつもりだと語っていた。彼は、「バンドが動いていなかった当時、ソロ・ライブをやるとみんなに“ディジー・ミズ・リジーのライブはないのか?”と訊かれたものだよ。だけどディジーのライブ活動が活発になってくると今度は“たまにはソロ・ライブが観たいんだけど”と言われるんだ」と言って笑っていたが、彼にはどちらの場も失って欲しくないというのがファンの本音だろう。
ちなみに彼はごく最近、母国デンマークのフェス「コペンヘル」の10周年を記念して、同国のオール・スター・プロジェクトに参加。先輩格にあたるD-A-Dのギタリスト、ヤコブ・ビンザーと共作した“Omvendt Korstog”なるアニバーサリー・ソングのメイキング映像が、ちょうど彼の日本滞在中に公開されており、その情報が彼自身の手により公演翌日に拡散されていた。
母国デンマークでは、まさに国民的な支持と認知を得ているディジー・ミズ・リジーとティム・クリステンセン。双方の今後の動向に注目したいところだ。加えて、いわゆるジャンル的な先入観から彼らの作品にいまだに触れたことのない読者がいるならば、是非、次なる作品が届く前に、このすぐれた音楽家についてチェックしておくことをお勧めしておきたい。(増田勇一)