日経ライブレポート「アトムス・フォー・ピース」

レディオヘッドのトム・ヨーク、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリー、そして売れっ子プロデューサーのナイジェル・ゴドリッチの3人を中心とするスーパーグループである。3年前のフジロックで観たとき、その素晴らしいライヴ・パフォーマンスに圧倒され、ずっと単独公演を楽しみに待っていた。

もともとこのバンドは、トム・ヨークのソロ・アルバムをライヴで再現してみようという試みからスタートした。彼のソロは多くの音がコンピューターで打ち込まれた音で構成されていたので、それを実際の楽器で再現するのはとても難しい。並大抵の技術では不可能といっていいだろう。実際、このバンドのすご腕ミュージシャン達も最初は苦労したようだ。

しかし練習を重ね、それができるようになって来ると、これまでのロックとは違う、独特のビート感やグルーヴが生まれて来たのだ。トム・ヨーク自身、それは驚きだったと語っている。コンピューターの音を人間が再現してみせるという倒錯した方法論が、誰も聞いたことのない革命的なサウンドを生んだのである。ライヴは終始我々の中にある体を動かしたい、踊りたいという衝動を突き動かす、原初的なエネルギーに満ちたものであった。

今のポップ・ミュージックにおいてコンピューターの音は当たり前のものとなっている。というか生音よりコンピューターの音のほうがリアルだったりするくらいだ。その時代に、肉体的な音を復権させるためにはコンピューターの音を肉体によって再現することが有効だったという発見は、とても興味深い。

11月21日、新木場スタジオコースト
(2013年12月3日 日本経済新聞夕刊掲載)
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