日経ライブレポート「MIKA」

徹底したサービス精神に貫かれた、いつものように凄く楽しいライヴだった。一曲毎に演出が考えられ、観ていて全く飽きる事がない。

しかしミーカはポップ・ミュージックの楽しさ明るさを愛していると同時に,ポップ・ミュージックのリアルを支えているのが、悲しさや暗さである事も知っているアーティストである。

というか、彼のポップで楽しいメロディーに乗って歌われる歌詞のほとんどは彼が世界に対し感じている違和感がテーマになっている。

従って、その内容は暗くて重い。例えば4曲目に歌われた“ブルー・アイズ”の歌詞は「なぜって悲しみとはなんとも奇妙なもので、ある日突然訪れたかと思えば永遠に君の元を離れない。君は薬を飲んでその効き目に期待する。でも結局自問することになるんだ、悲しみはなぜ癒されないのかと」

本編ラストに歌われた“ウィー・アー・ゴールデン”も「僕は今独りで座り込んで助けを求めている、周りには誰もいなくて、このままじゃ自分を傷付けてしまう」という内容だ。こうした重い歌詞が、きらびやかな照明の中、ポップなメロディーと明るいビートに乗って歌われていく不思議な倒錯感、それがミーカの魅力であるし、あえて言えばポップ・ミュージックの本質でもあると思う。

そして重要なのはその暗さや悲しみがそこに留まる事なく希望や明るさに転換されていくところだ。“ウィー・アー・ゴールデン”もサビは「僕らの未来は希望に満ちている」というものだ。ミーカはその部分を何度も客に歌わせていた。会場に起きた「ウィー・アー・ゴールデン」の大合唱、あれこそがミーカの目指すポップ・ミュージックの楽しさだろう。

6月7日 ZEPP 東京

(2010年6月16日 日本経済新聞夕刊掲載)
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