日経ライブレポート「アーロ・パークス」

ライブの後半、盛り上がったステージでいきなりアーロ・パークスが後ろでんぐり返しをした。お客さんは大喜びで、僕も笑ってしまった。しかし、なかなかないパフォーマンスだ。

日本での知名度は、まだそれほど高くないが国際的には高い評価と人気を持つアーティストだ。2021年に発表されたデビューアルバムが絶賛され、本国イギリスの代表的な賞であるブリット・アワードとマーキュリー・プライズを獲得した。そしてグラミー賞でも「最優秀新人賞」を含む2部門にノミネートされ、アルバムは全英チャートでトップ3に入った。

イギリスのサウス・ロンドン出身の22歳の女性シンガー・ソングライター。いわゆるネオソウルといわれる新しい形のソウルミュージックを基本とするが、いろいろな音楽からの影響を反映した、まさに彼女独自の音楽スタイルを持っている。特にソングライティングの力は素晴らしく、20歳の時に発表されたデビュー作における曲の質の高さに多くの人が衝撃を受けた。ポップで聴き易いメロディで歌われるのは、とても内省的て生きにくい自分の人生。LGBTQである自分も大きなテーマだ。

まるでインディーロックバンドのようなステージだった。ロックともソウルともいえる自由な佇まい。ひょっとすると米国ではなかなか成功しづらいスタイルかも知れない。ソウルと捉えるとバンドは素人くさすぎる。でも、それが魅力だし、彼女のステージアクションもダンス的要素が少なくて素人くさすぎるかもしれないが、とてもキュートだ。後ろでんぐり返しはいかにも彼女らしいパフォーマンスだった。

7月5日、恵比寿ザ・ガーデンホール。
(2023年7月26日 日本経済新聞夕刊掲載)
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