日経ライブレポート「ブルーノ・マーズ」

ステージの背後には巨大なLEDヴィジョンが組まれている。5万人収容のドームライヴでは必需品ともいえるセットだ。当然のこと派手な映像演出があると思っていたが、ほとんど中央のヴィジョンは使われない。本格的に使われたのは2時間のショーの最後の30分ぐらい。それまでは、ひたすら歌い演奏する肉体と音の力で走り抜ける。照明も単色でシンプルに点滅するストイックな演出。ブルーノ・マーズらしいなと思った。

ストリートミュージシャンが、その肉体だけで聞き手に高揚感を与えるように、ブルーノはドームコンサートでも自分とバンドが叩き出すビートと歌の力で5万人の聴衆を熱狂させてみせる。そこに映像演出はいらない。むしろ邪魔かも知れない。それが一番際立ったのが、ショーの中盤に行われたピアノの弾き語りだ。曲のさわりを歌って続きをお客さんに歌わせるのだが、ホールコンサートならいいが5万人のドームの会場ではなかなか難しい演出だ。でも彼はそれで見事な一体感で会場を包んでしまった。

特にアンダーソン・パークとのデュオ、シルク・ソニックのヒット曲「リーヴ・ザ・ドア・オープン」を歌った時の盛り上がりは凄かった。グラミー受賞の大ヒット曲の使い方としてはもったいない気もしたが、それもブルーノらしかった。お客さんも素晴らしかった。その弾き語りでは本人の曲だけでなく、コラボ曲なども歌われたのだが、どの曲にも大きな合唱が起きた。全員が一緒になって音楽を楽しむ多幸感が溢れていた。

日本での洋楽マーケットの縮小が言われて長い。しかし、この日のドームの熱気を見るといくらでもその流れの逆転はあるような気がして勇気付けられた。

10月26日、東京ドーム。
(2022年11月16日 日本経済新聞夕刊掲載)
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