現在発売中のロッキング・オン9月号では、ビヨンセのライブレポートを掲載しています。
以下、本記事の冒頭部分より。
文=平澤碧
はっきり言って、混迷している。ここ数年にわたって、排外主義の風潮はますます強まる一方だし、マチズモの狂騒は止まるところを知らない。日々届くニュースは、辟易するものばかりだ。そんな中、2025年2月に届いたビヨンセの最新ツアーの告知には心から希望を感じた。LAの山火事を受けて、少しの延期の後に発表された最新ツアーは「Cowboy Carter And The Rodeo Chitlin’ Circuit Tour」と題されていた。「Chitlin’ Circuit」とは、公民権が制限されていたアフリカンアメリカンのミュージシャンたちが演奏した会場のネットワークのことだという。今回のツアーは、『カウボーイ・カーター』の深く切実なテーマをさらに前進させる場になるのだと瞬時に理解した。そして、ツアー日程を見ると、7月4日=アメリカ独立記念日にワシントンDC公演が組まれていた。最新アルバム、そして最新ツアーの両者で「アメリカを問う」毅然とした姿勢を見せていることを考えれば、この公演は「時」と「場」の文脈があまりに噛み合っている。何か特別なパフォーマンスや大物ゲストの登場があるのではないか? はたまた、政治的な意思表明があるのではないか? この日は注目公演の一つとなり、さまざまな憶測が飛び交った。果たして、ビヨンセはどんなパフォーマンスを見せるのか?胸が高鳴り、いても立ってもいられなくなった私はワシントン公演のチケットをなんとか手に入れて渡米を決めた。リリース日にサインをもらうという、幸せで奇跡的な体験をした一人として、今回のツアーはなんとしてでも観たかったことも記しておきたい。
7月4日のワシントンは、日が長かった。開演予定の20時を過ぎても、陽は依然として燦々と照りつけている。今か今かと開幕を待ち侘びる満員のスタジアムには、緊張感と期待感が混じりあっていた。BGMの節目を開幕の合図と捉えた一人の歓声が瞬時に伝播し、膨大なエネルギーが渦巻いては鎮まる。そんな空騒ぎが幾度と繰り返された後、いよいよ時がきた。
時刻は20時40分頃。夕暮れのだだっ広い空の下、巨大なスクリーンに映るグリッド分けされた星条旗が一コマずつブラックアウトしていく。激しい点滅を交えつつ全てが消え、修道士を思わせる藍色の衣服に身を包んだダンサーチームが登場した。勿論、頭にはカウボーイハットを被っている。厳かで静謐なムードのなか、“アメリカン・レクイエム”が流れ出す。ミサのような神聖な雰囲気だ。やがてステージ中央から星条旗色の鮮烈な光が放たれると、スタジアムを埋め尽くす熱気が瞬時に一点へと集中。ついにビヨンセが登場した。(以下、本誌記事へ続く)
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