ベル・アンド・セバスチャン、2015年の『ガールズ・イン・ピースタイム・ウォント・トゥ・ダンス』以来7年ぶりの新作である。
とはいえ、2018年に連作EPを取りまとめた作品、2019年にはサウンドトラック、2020年にはライブ作品と、その間も定期的に充実した作品達を届けてきてくれていた為、幸いにして彼らの不在を感じることはあまりなかったのだが、それでもやはりオリジナルアルバムとなると、聴く側としてもより一層気合が入るというもの。そして、どうやら気合が迸っているのはバンドも同様のようなのだ(「ベルセバ」と「気合」という語感のミスマッチを踏まえても、なお!)。
まず、先行シングルとして発表された“アンネセサリー・ドラマ”を聴いて驚いた方も多いのではないだろうか。けたたましく吹きすさぶハープで始まったかと思えば、ザクザクと刻まれるギターリフに腰を揺さぶられているうちに、気付けば4分強の至福の時が過ぎている、極上のロックンロール。音楽史に燦然と名を残すUKロックアンセムに間違いなく比肩するであろうこの楽曲は、明らかに意外なるバンドの新境地と言うべきものだろう。しかし、この曲さえ本作においては数ある表情のひとつに過ぎないのだ。
LAで予定されていたセッションがコロナ禍により中止となった後、地元グラスゴーにて長年のリハーサルスペースを改修し、時間の制約を受けずセルフプロデュースでのレコーディングに没頭したという本作。その特徴は、彼らのキャリアにおいて恐らく最も多彩なアレンジが施された各楽曲の異様なまでのバラエティの広がり。近作でのディスコやエレポップを引用した「ささやかなハイパー化」を経て果たした、本格的かつ全方位的な脱皮である。
ただ一方、その振れ幅の大きさにより逆説的に変わることなき「ベルセバらしさ」を痛感する作品にもなっているところが、彼らが信頼に足る所以でもある。
勇敢なる開拓によって改めてその立脚点を照らし出す『ア・ビット・オブ・プリヴィアス』。ベルセバが、またしても我々に「特別」を増やしてくれることは必至。次号では彼らの最新インタビューをお届けする予定。乞うご期待! (長瀬昇)
ベル・アンド・セバスチャンの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』5月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。