事件が起きたのは去る8月6日のこと。ガンズ・アンド・ローゼズが突如、“ABSUЯD”なる新曲を発表した。ただ、その前兆がなかったわけではない。彼らは去る7月31日から北米スタジアム・ツアーを開始しており、その初日のサウンドチェックの際にこの曲が演奏されていたとの情報が即座にSNSなどを通じて広がっていた。そして同ツアーの2本目にあたる8月3日のボストン公演で初披露され、それ以降は毎公演で演奏されているのだ。
要するにツアー開始に合わせて挨拶代わりの新曲を発表、というごく単純な話であり、そこに不可解な匂いがあるわけではない。ただ、そうした当たり前のことを一切せずにきたガンズだからこそ、それがニュースになるのだ。かねてから聞こえていた現ラインナップでの新音源制作の噂も、なんだかいっそう現実味を帯びてくる。
しかもこの楽曲、純然たる新曲というのとは少々違う。このバンドの名義での新曲登場は2008年の『チャイニーズ・デモクラシー』発表時以来13年ぶりということになるが、実は同作に収録されるものとみられていた“Silkworms”がその原曲にあたるのだ。しかも今回世に出た“ABSUЯD”の音源も全面的な新録音によるものではなさそうで、ドラムは当時のメンバーだったブレインの演奏によるものだし、アクセル・ローズのボーカル・トラックも真新しいものであるかどうかは疑わしいところがある。
ただ、スラッシュやダフ・マッケイガンが関わっていない同作からは、2016年の再集結後も表題曲や“ベター”をはじめいくつかの楽曲が演奏されてきたし、ここで“ABSUЯD”に浮上の機会が訪れたことについても不自然さはない。往年の代表曲群とは一線を画す攻撃性を伴った“ABSUЯD”がこの局面で選ばれたことにも意味がないとは思えないし、新作について推理するうえで何よりも鍵となるのが『チャイニーズ・デモクラシー』ということになるのかもしれない。
いずれにせよ現時点では何ひとつ真相がわからぬままだが、確かなのは不安定なこの状況下において、いちばん動き出しそうにないバンドが新展開をみせているということ。やはりこれは、事件なのである。(増田勇一)
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