初めてライヴを観たときは、押しが強くてテンションの高い、有り体にいえば関西ノリの兄ちゃんたちだなあ、と思った。地元ではない東京で、いくつものバンドが出るイベントで、だからたぶん初めて自分たちを観るお客さんがほとんどという状況で、フロア全体をぐいぐい巻き込んでいくパワーがものすごかった。
でも、そのあと音源を聴いたら、まったく印象が違った。もちろん演奏のパワー感みたいなものはライヴの熱さを反映していたけど、細部まで意志が込められた、ものすごく繊細なロックをやるバンドなんだということに気づいた。
8月28日リリースのミニアルバム『オレンジの抜け殻、私が行きたアイの証』には6曲収録されていて、そこには過去曲も含まれているのだが、6曲が6曲とも、見事にバラバラである。バンドの可能性を最大限に広げようとするかのように、1曲ごとに新しいアイディア、新しいチャレンジが散りばめられている。小手先のフレーズや曲の展開だけじゃなくて、グルーヴやメロディや音の組み立てまで違う。でも一方で、ミニアルバム1枚を通して一貫しているものもある。つまりオーラル・シガレッツの背骨のようなもの。それはVo・Gで作詞作曲を手がける山中拓也のもつシビアな視点だ。
山中の歌詞は、人が見過ごしがちな、あるいは見て見ぬふりをするような、生々しくて残酷な現実に徹底的に視線を投げかける。簡単にいうと暗い。暗いんだけど、その暗さは鬱屈して密室に閉じこもった暗さではなくて、夜明け前の東の空みたいな暗さだ。すぐそこに光があるのがわかっていて、でも目の前には闇が広がっていて、静かにめらめらと燃えているような。ミニアルバムの最後にある“机上の空論に意味を為す”はその象徴みたいな曲。暴走する欲望と、それを見つめる冷徹な目と、絶望とかすかな希望。人間なんてクソだと思いながら、それでも人間に対する愛を捨てきれない、そんなギリギリの希望。その、うまく線を引けない、まだ迷いが残っている感じが、逆にリアルで誠実だと思う。
どうやら、山中の歌詞はここにきて急激に変化して、こういうことを書くようになったらしい。覚悟を決めて本当の自分を出していったら、こういう歌詞になったらしい。“机上の空論〜”でたどり着いたところから、どう深化していくのかが楽しみ。JAPAN10月号(8月30日発売)の記事で初登場、奈良の4人組、THE
ORAL CIGARETTESです。よろしく。