埋められた棺桶から一度も出ない作品@TIFFその7

埋められた棺桶から一度も出ない作品@TIFFその7

今年はなぜか男がひとりで逃げ惑う作品が多い。恐らく、社会や戦時下の抑圧がそのひとりの人間の葛藤に凝縮されいてるのだと思うが、そのうちのひとつ、ライアン・レイノルズa.k.aスカジョ旦那の主演作が究極だ。その名も”BURIED"(埋められた)というタイトルのこの作品は、イラクで建築現場のトラック運転手として働くレイノルズ演じる主人公が、気付いたら棺桶の中に入れられ、土の中に埋められている。その中で、なんとか通じる携帯とライターの光をだけを頼りに、脱出を計ろうとするという内容だ。この作品のすごいところは、映画が始まった瞬間から終わるまで、カメラが一度もこの棺桶の中から出ないこと。

ポスターは明らかにヒッチコックを意識したもので、ヒッチコックをあげてすでに賞賛している批評家もいるのだけど、個人的には、演技にもプロットにもあまりにも突っ込みどころが満載で、ヒッチコックではないだろう……とは思う。しかし、ひとりしか出てこないのに、主役を例えば演技派のエドワード・ノートンとかではなくて、なぜかライアン・レイノルズを選んでいることにも明らかだが、その少しずぼらなところが、実は、この映画をより大衆が観やすいものにしているような気もする……褒めてんだか貶してんだかって感じですが、褒めてます。

とりわけ、真っ白な服を着て真っ白な雪の中、台詞もなくひとり逃げ惑う、ヴィンセント・ギャロ主演の”ESSENTIAL KILLING"(ヴェネチアで主演男優賞/審査員特別賞受賞)の完璧で隙のないハイ・アート作を観た後では。素晴らしいんだけど、敷居が高い作品だと思うので、なおさらライアンの抜けのあるところに好感が持てた。

しかし男がひとりで逃げ惑うシリーズ、極めつけはこれから観るダニー・ボイルの新作”127 HOURS"だ。つまり127時間逃げ惑うんだと思う。凄まじい反響を得ている。観たら報告します。
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