2010年の台風の目

2010年の台風の目

ボルチモアの男女デュオ、Beach Houseの新作が到着。オルガンとスライド・ギターでサウンドを演出するアレックス・スカリーと、ミシェル・ルグランの姪でボーカルを担当するヴィクトリア・ルグランの2人は、すでに、Grizzly BearやFleet Foxesから最大級のリスペクトを捧げられているのだけど、来年初頭にリリースとなるその新作『TEEN DREAM』は、過去2作を大きく上回る、まさしくドリーミーでマジカルなミドル・テンポのポップ・ワールドが展開されている。とはいえ、一聴してその特別性が隆起してくるタイプの音楽というわけではない。過去を顧慮すれば、たとえばプリファブ・スプラウトの名前が想起されるような、細部にまで作り手の吐息が吹き込まれた緻密で湿り気のある音の質感に、大向こうをはっとさせるスリルは皆無だ。けれど、その音は決して聴き手を離すことなく、いつのまにか「ここではないどこか」に連れてきてしまう。
つまりは、そのような「ありえなさ」をありえるものとするのが、このユニットの唯一無比なところだろう。宗教を称える音楽は腐るほどあるが、音楽そのものが宗教的な聖性を帯びることは稀である。そのような特異なディメンションに、Beach Houseはタッチしている。
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