キッスのポール・スタンレーは現在の音楽の状況を憂えて「音楽は食べ物と同じなんだ。いいものとまずいものがあるんだよ」と語っている。
音楽サイトのノイジーの取材に答えてポールは次のように語っている。
「今の音楽は大問題を抱えていて、それはラジオで聴ける音楽の大半は機械的に作り出されたもので、それぞれに互換性があるもので、歌ってる人たちも本物の歌手ではなくて、スタジオに入ってオート・チューンで音程を調整してもらってるような人たちだってことなんだよ」
「俺はさ、フィルモア・イースト(ロック興行の草分けの一人、ビル・グレアムがニューヨークで運営していたライヴハウス)に通いつめながら育ったわけで、そこでジミ・ヘンドリックス、レッド・ツェッペリン、ハンブル・パイとか観たわけだよ。ジミ・ヘンドリックスについてはもう宇宙人かと思ったからね。スティーヴィー・レイ・ヴォーンも本当にすごいと思ったけど、ヘンドリックスなしにはスティーヴィー・レイ・ヴォーンもないわけだからね。その点、ヘンドリックスは……あまりにもオリジナルだったからとてつもなく深いものだったし、あらゆるジャンルの垣根を越えてたよね。ヘンドリックスのやってることには人種的なことはなにも感じられなかったよ。ヘンドリックスはただジミ・ヘンドリックスであるというだけだったね。だから、ものすごく、とんでもないくらいダイナミックで、すごい印象に残ったよ。2度観に行ったんだよね」
「その頃のニューヨークでは2千人くらいの会場でいろんな人を観られたからすごく恵まれてたと思うよ」
「俺が問題だと思うのは、今の音楽はさ、自分の曲でも歌いたくなかったら、すぐに代わりの人を連れてくることができるっていうことなんだ。結局、顔がないからそういうことができるわけで、それが最近の最大の問題だと俺は思うんだよ」
「まあ、こうは思いたくないけど、これもきっと俺が歳を取ったせいかもしれないよね。でも、たくさんの若い人たちが、人間自身の手によって作られた音楽の興奮を見過ごしているのはすごくもったいないと思うよ」
「俺たちが育ちながら聴いてきた音楽をこれほどまでに愛してやまないのはそれが完璧なものじゃなかったからなんだよ。俺たちがやってきたことは情熱を完璧さに置き換えてしまうことだったんだけど、俺が大好きだったモータウンなんかはもう間違いで溢れていたんだよね。レッド・ツェッペリンのファースト・アルバムも破滅的な作品だから。このアルバムが素晴らしいのはジミー・ペイジが折に触れて脱線して行っちゃうからなんだよね。でも、音楽ってそういうもんなんだから」
「音楽っていうのは気持ちよさを追求して限界域をどんどん拡げていくことなんだ。ほとんどのものについてそういう要素が今では欠けてるよ」
「もし誰かに今の若いバンドで好きなバンドは誰って訊かれると、フー・ファイターズとしか答えようがないんだよね(笑)。でも、あいつはもう何年フー・ファイターズやってるんだよっていう話にもなってくるわけでね」
「俺になんか働きかけてくるものはあんまりみつからないんだよね。でも、みつかった時にはなんか俺に別なものを想起させてくれるんだよ。どうせ聴くならそういうものが聴きたいよね」
今年の夏はデフ・レパードとのジョイント・ツアーを行ったキッスだが、来年2月には来日ツアーも控えている。
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