1stミニアルバム『faust』が告げる、新たな物語の幕開け

3ピース編成のロックバンドMississippi Duck Festival。今年の7月に初の全国流通作品としてEP盤『DREAMER』をリリース。そして、早くも新作のミニアルバム『faust』を完成させた。収録されている全7曲が描いているのは、自身に割り当てられた有限の時間の中で精一杯に生命を燃やし、未知の何かを手にしようとする魂の生々しい息吹。タイトルに掲げられている『faust』は、ゲーテの『ファウスト』から来ているそうだが、あの戯曲にも通じる人類の普遍的な悩みを様々な角度から抉っている。そして、そのような世界を心地よい歌とメロディ、ドラマチックな演奏で浮き彫りにしているのも大きな聴き処だ。今作についてメンバー3人が語ってくれた。

(インタヴュー=田中大 撮影(インタヴューショット)=小川智宏)

「まだ何も得ていないけど、自分達は進みたいと思っている」ということを考えました。「やるしかない!」って思っていることを全部にこめたつもりです

――制作はどんなところから始まったんですか?

大須賀拓哉(Vo・G) 最初のほうの段階で出来ていた曲が"DREAMER"と"YODACA"なんです。歌詞をつける前の"DREAMER"をふたり(川田と岡田)に最初に聴いてもらった時、「ライヴでやろうよ! 好きなことを歌っていいから」って言ってくれて。それで歌詞を書いたんですけど、「自分はどうやって生きたいんだろう?」とか「まだ何も進んでないし、何も得ていない。けど、このバンド、自分達は進みたいと思っている」ということを考えました。そういうところから他の曲も生まれていったんです。自分達が「やるしかない!」って思っていることを全部にこめたつもりです。

岡田悠也(Dr・Cho) "DREAMER"を最初に聴いた時、「いい曲だな」っていうのをまず素直に感じて。演奏してもすごく感情が入ります。

川田勤(B) 大須賀が持って来る曲って「バンドでやる」っていうより、「歌」っていうような弾き語りの感じが強いんです。でも、"DREAMER"は割とすぐにベースをつけてバンドで演奏したくなったのを覚えています。

岡田 "YODACA"もそうでしたね。展開は最初に作ったものからどんどん変わっていきました。"DREAMER"もかなり変化しています。

川田 "DREAMER"は、最初の頃にスタジオで試しに録ったものを聴き返すと、30分くらいやりたいことをやっているんですよ。やりたいことが、とりあえずグチャグチャに入っていました。

――30分の尺って、プログレバンドみたいですね。

大須賀 元々僕らがやりたかった感じ、影響を受けていたのがジェネシスとかだったので。

――このバンドからジェネシスという名前が出てくるとは想定外です。

川田 僕らは前は4人編成で、もっと暗い曲をやっていたんです。その頃に「四人囃子っぽいね」って言われて。そこから「こういうバンド、好きなんじゃない?」っていろいろ紹介されたんですよ。イエス、ジェネシス、キング・クリムゾンとか。

――プログレの話が出たからいきなり話を飛躍させますけど、今回のタイトルは『faust』じゃないですか。ジャーマンプログレの影響?

大須賀 それは違います。この7曲を作った時点で、「アルバムのタイトルって何だろうな?」って考えたんです。その時にずっと僕が聴いていたのが、ブッチャーズ(bloodthirsty butchers)の"ファウスト"。歌詞がとても僕の身に沁みて。聴きながら「僕はもう旅に出ているんだな」って感じたんですよね。その後にちゃんとゲーテの『ファウスト』を読み始めて、このタイトルになっていったんです。

――ファウストは、有限の人生の中で全てを知ることが出来ないという現実の前に絶望するじゃないですか。今回のミニアルバムと通じるものがありますよね。

大須賀 そうですね。畏れ多い話ですけど。

――"DREAMER"は、まさにそういう曲ですよね。《愛や自由さえ売り払えば喰えるか? 心まで差し出したら負け》とか歌っていますけど、音楽を作ってバンドをやる上での覚悟がすごく詰まっている曲としても受け止めました。

大須賀 こんなふにゃふにゃしている人間ですけど(笑)。

――メンバーとして、歌詞はどう感じていますか?

岡田 自分に対する不甲斐ない感情とかが書かれているのを読むと、僕も「もっとやらなきゃいけないな」っていう気持ちになりますね。

――すごく音も言葉も含めて「伝える」っていうことに対するエネルギーが大きいバンドですよね。歌って踊れて盛り上がれれば満足っていうことでもないんだろうなと。

大須賀 ほんとに……どれほど嬉しい言葉か。

岡田川田 (笑)。

大須賀 作って良かった(笑)。

――僕のために作ったわけじゃないでしょ(笑)。

大須賀 そう思ってくれる人がひとりでもいたら、それでいいです。このまま帰って布団にくるまって寝ようかな。

岡田 幸せなんだ?

川田 いい気分のまま寝たいみたいです(笑)。

――(笑)さっきプログレの話が出ましたけど、このバンドのルーツって?

大須賀 好きなのは何だろうね?

川田 みんなバラバラだからね。四人囃子っていうのも、他の人に言われてから聴き始めた音楽ですし。

大須賀 何かみたいになりたいとかいうことよりも、「どういうことをやったら面白いか?」という感じでやってきたので。好きだったのはブルーハーツ、イエローモンキー、ウルフルズ、奥田民生さん。V6も聴いていたし、ニール・ヤング、ジャクソン・ブラウン……。

岡田 オーティス・レディングとか。

川田 レディオヘッドとかも。

大須賀 うん。そして、ジェネシス行って、クラウド・ナッシングスとかアップルシード・キャストとか……今はアイドルマスターと坂本真綾さん。

――洋邦のロック、ソウル、USインディ、UK、プログレ、J-POP……ひとつのジャンルで括りようがないですね。

大須賀 とにかく「かっこいい」と思えたものを聴いていて、「何でかっこいいって思えたんだろう?」って考えながら音楽をやっていますね。

これを作って、『faust』っていう名前をつけて、僕自身もとても腑に落ちたんです。自己の探究、心の旅って永久だろと思って

――曲はどんなプロセスを経てアレンジをしているんですか?

大須賀 例えば"心臓"だと、「ちょっと小雨が降っている京都の竹やぶの中を女優の小雪さんが歩いているイメージ」っていうような、僕の頭の中に絵があるんですけど。少しでも映像が現れるようなものになれば一番いいかなと思って作っています。まあ“心臓”に関しては最初は小雪さんだったんですけど、最終的には小日向文世さんの方がイメージに合っていると思ったんですが。

岡田 そういう話もしたね(笑)。

――いろんな曲に言えることですけど、リズムも含めた展開が実は結構複雑ですよね。

岡田 曲を持って来られた時、なかなか上手く拍子がとれないこともあって。「これ、どういうリズムなの?」っていうところから始まったりもしますね。

大須賀 多大な迷惑をかけています(笑)。

川田 僕らと一緒にやってみたいって言ってくれるモノ好きな人もいますけど、一緒にスタジオに入ったら嫌われちゃうのかも。

大須賀 まあ、音楽以前に人としてめんどくさいバンドなので。

――ポジティヴな意味もたっぷりこめつつ失礼な表現をするならば、人としても音楽としても浮いているところがあるバンドですよね。でも、曲に関しては「浮いている」という印象が全面的に主張する感じじゃないのが面白いです。いいメロディ、いい歌のバンドとしてストレートに楽しみつつ、「……ん? 何かちょっと変わってる?」ってふと感じるような感触ですよ。

大須賀 ありがとうございます!

――マニアックにいろいろ考えながら聴く人以外は、変わったバンドだと気づかない可能性も高いと思います。素直に「キャッチーじゃん!」と。

大須賀 「自分達がやろうとしていることをただ形にしたら、自分達のステージでしか闘えないけど、そうじゃなくていろんなところで闘えるようなバンドになろうよ」って言われたことがあるんです。それを言われてから大分考え方が変わりました。それが少しでもキャッチーっていうものに繋がっているのならば嬉しいです。僕はアイドルマスターや坂本真綾さんが好きなくらいですから、歌自体が好き。その芯がブレなければ、どういうことをやっても大丈夫なのかなと。だから「キャッチーだけど実は分かりにくい」っていうように捉えてもらえるのはとても嬉しいことです。

――分かりにくくはないですよ。ザックリ言うと変。

大須賀 良かった(笑)。

――何て表現すればいいんだろう? 「このスープすごく美味しい!」って思って夢中で食べてたら、ふと、とんでもない食材が入っているのに気づいて「ギョッ!」みたいな?

岡田 なるほど(笑)。

――では、作品についてのお話に戻りましょうか。収録されているいろんな曲のことを考えて改めて思うんですけど、『faust』っていうタイトル、すごくピッタリですよね。どれも人生の中でとことん何かを追求したり、限界を超えて行こうとする姿勢がこめられていますから。

大須賀 これを作って、『faust』っていう名前をつけて、僕自身もとても腑に落ちたんです。自己の探究、心の旅って永久だろと思って。僕はちゃんとした人間になれているか分からないですけど、少しでも人様に恥ずかしくないような人間になって、それをちゃんと表現出来るようになりたいと思っている。それは茨の道かもしれないですけど、旅はもう始まっているっていうことなんですよね。そういう場所に身を置いたんだったら、この世界をどんどん旅してみようかなと。

――知らないことを知りたい、もっと知りたいっていう人間の本能も永遠の心の旅ですよね。"進化の証明"は、そういうことを描いた曲として受け止めたんですけど。

大須賀 「人間」っていう言葉自体が頭の中でしっくりこないことがあって。それよりも「人類」っていう括りの方がしっくりくるんです。「まだこれから何かになれるんじゃないか?」っていう気持ちでいたいので。そういう気持ちも入っている曲です。

――この曲、ベースがかっこいいですね。

川田 ありがとうございます。結構すぐに出てきました。そういう時は……ひとりで満足しています。えーと……僕も好きです、このベース。

大須賀 自己採点?(笑)。

――さっきから思っていたんですけど、川田さんを筆頭に、3人とも喋るのは苦手?

大須賀 ほんと、普段、人と話をすることがないので。今日思ったんですけど、話しかけてもらえるって嬉しいよね?

川田岡田 うん。

――今日、1年分くらい喋った?

岡田 そう言っても過言ではないかもしれない(笑)。

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