10thオリジナル・アルバムである前作は「華ありポップ」として好評を博し、四半世紀にわたる英音楽業界への貢献に英レコ大が功労賞を授与。健在ぶりを示したふたりの3年ぶり新作は、タイトルに違わぬ美しいプロダクションとヒューマンなあたたかみに満ちる作品になった。
カニエ・ウェストのエンジニアが制作に参加したのは一見意外ながら、過去数年の音楽シーンが80年代英ポップ・サウンドを盛んに引用してきたことを思えば、トレンド・セッターのひとりであるカニエのブレーンとPSBの感性は案外近いのだろう。こういう音を若い世代がやるとクリシェになりがちだが、コピーではなく「80年代サウンドの現代的再解釈」になっているのもさすが本家。ミッド~スロー・テンポに重点を置いた楽曲はいずれも高品質で(「あざとい!」とうなるほど上手い③他)、シームレスなサウンドと共に彼らのメランコリックな持ち味を堪能できる。泣きメロだけではなく④⑦などニールのウィットも冴えるが、全体的に年齢がもたらした叡智や時の流れを感じさせる歌詞はポップ・ソングという器の「深さ」を知り尽くしたマエストロならではだ。(坂本麻里子)
ボーイズの内的成長
ペット・ショップ・ボーイズ『エリシオン ~理想郷~』
2012年09月05日発売
2012年09月05日発売
ALBUM