いまでも昨年『ニグロ・スワン』の、ジャケットも含め緻密に構築された完成度の高さに圧倒された記憶が生々しいが、その追伸のようなアルバム『エンジェルズ・パルス』が届けられた。ブラッド・オレンジことデヴ・ハインズが、「演奏もプロデュースもミックスもすべて自分自身で行った。僕はこれをミックステープと呼んでいる」と語っているようにプライベート色の強いもので、いつもアルバムを出した直後には作り、セルフ・エピローグと位置づけているのだという。とはいえゲストにはトロ・イ・モワを始めとして多くの名前が並ぶし、先行発表された“Benzo”のMVではトランスベスタイトの出演者たちが主役だったりと、華やかな雰囲気もたっぷりなのだが、聴いてて伝わるのは、濃厚な密室感であり、チル・サウンドがもたらす癒しだ。曰く〈まるで意識の流れそのものを日記の1頁に映し出したかのような作品〉。
振り返ると、以前の『フリータウン・サウンド』なんかも自伝的なテーマであったし、極めて個的な起承転結を追究する彼のスタイルからすると、こうした音も一つのアルバムを作り上げた高揚をクールダウンさせる必要性から生まれたアプローチと受け止めれば納得のいく流れであり、同時に優れたスピンオフものとして受け止められる。
ラッパーのマック・ミラーを始め友人たちの死や、生まれ育ったイギリス、現在移り住んでいるアメリカの社会的な混乱を反映した部分もあるというが、そうした外因を、巧みに物語性を内包したサウンドに変換させていくあたりは、この人のプロデューサーとしての才能の、まだまだ多くの可能性と深い埋蔵量を感じさせるし、プライベートを巧みにミックスさせていくのが得意な人ならではの1枚となっている。 (大鷹俊一)
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