きっと大丈夫、君がそばにいてくれるなら

キッズ・シー・ゴースツ(カニエ・ウェスト&キッド・カディ)『キッズ・シー・ゴースツ』
発売中
ALBUM
キッズ・シー・ゴースツ(カニエ・ウェスト&キッド・カディ) キッズ・シー・ゴースツ

「子供たちは幽霊を見る」という、なんとも「意味深」なタイトルが付けられたこの作品は、カニエ・ウェストキッド・カディのふたりが手を組んだ、初のコラボ・アルバムである。ご存じのとおり、カニエは5月末から、プロデュース作/新作/コラボ作を毎週リリースし続けているわけだけど(もはや『週刊カニエ』だ)、本作はその「第3弾」に当たり、一連の作品の中では、おそらくもっとも「ガードを下げて」作ったアルバムだと思う。

この前に「第2弾」として発表されたカニエ自身のアルバム『Ye』と同じく、本作のテーマもやはり「心の病」である。成功がもたらすプレッシャーや不安。暗闇に取り残される恐怖。人からまた裏切られることへの不信感――最近のカニエと同じく、カディもまた、精神の病に慢性的に苦しんできたアーティストだ。いわば、このジャンルの「先輩」であり、今のカニエにとっては、まさに理想的なコラボ相手である。

音楽的に言うと、収録された全7曲は、あらゆる意味で「混乱」している。ほとんどの曲は突然始まり、突然終わる。どこがAメロでどこがサビなのか、見当もつかない、チューニングのおかしなオルガンやバイオリンが怪しげなメロディを奏で、遠くでは狂ったような子供の笑い声が聞こえる。“Cudi Montage”では、カート・コバーンが宅録したローファイなアコギの音がサンプリングで使われる。“Kids See Ghosts”では、ゲストのモス・デフがタイトル・フレーズを呪文のように連呼する。子供たちには幽霊が見える、子供たちには幽霊が見える……もちろん、それらの「混乱」は、カニエとカディによって計算的に埋め込まれたものだ。でも、それでもやはり、混乱は混乱である。そして出口は見えない。

本作のキー・トラックと呼べそうな“Reborn”の中で、カディは《俺は生まれ変わる/前へと進む/進み続ける/進み続ける》と歌う。彼らふたりは、このアルバムで救われたのか? 正直に言うけど、僕にはわからない。ふたりの声は、救われたようには聴こえない。どちらかというと、それは、救われたいという「祈り」に聴こえる。もしくは、救ってくれという魂の「叫び」に。

『Ye』と同様、これは、午後の紅茶を飲みながら気分転換用に聴くタイプのヒップホップ・アルバムではない。でも、『Ye』とは違い、ここには微かな光も見える。少なくとも、このカニエの隣には「友」がいるから。ひとりぼっちではないから。どうかいつの日か、彼らふたりが、この深い暗闇からの出口を見つけてくれますように。 (内瀬戸久司)



『キッズ・シー・ゴースツ』の詳細はこちらより。

キッズ・シー・ゴースツ『キッズ・シー・ゴースツ』のディスク・レビューは現在発売中の「ロッキング・オン」8月号に掲載中です。
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キッズ・シー・ゴースツ(カニエ・ウェスト&キッド・カディ) キッズ・シー・ゴースツ - 『rockin'on』2018年8月号『rockin'on』2018年8月号
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