重く濃厚で物語性のあるステージを予想していたのだが、明るく躍動感のあるパフォーマンスで、彼女のアーティストとしてのレンジの広さ、そしてデビュー・アルバム一枚で破格の成功を収めた理由を確認することのできたライヴだった。
彼女のデビュー・アルバム『ラングス』は全世界で300万枚のセールスを記録した。言うまでもなく新人としてはあり得ないスケールの成功である。ポップ・ミュージックの主流がアメリカ的なイメージや価値観に主導されていく中、彼女が限りなくイギリス的なイメージを貫いてここまでの支持を獲得できたのは画期的なことといえる。というか、結果論ではあるが、そうしたイメージを貫いたからこそ成功できたのだろう。
ケルティックなビートに乗って、ハープという余りロックでは使われない楽器をサウンドの主要なキャラクターとして使い、愛と死をテーマにドラマチックなメロディーを歌いあげる彼女のスタイルは、今のポップ・ミュージックの世界にあって異質である。ヴィジュアル・イメージもイギリス人画家ミレイの世界を連想させるヨーロッパ的な世界観で統一して来た。ある意味、イギリスやヨーロッパのよき時代の復権がテーマともいえる。
しかしステージに現れたフローレンスの肉体は、まぎれもなく21世紀に生きる25才のポップ・アーティストのもので、動きや歌の躍動感やビート感、それはレトロなイメージの衣装とは違っていた。見事なのは、それを違和感や矛盾と感じさせず、よりダイナミックな表現として観客に伝えられていたことだ。
2月1日、赤坂BLITZ
(2012年2月21日 日本経済新聞夕刊掲載)
日経ライブレポート「フローレンス・アンド・ザ・マシーン」
2012.02.24 18:06