過去に発表された4枚のアルバムのうち3枚が全米でトップ5に入るセールスを記録している、評価も人気も高いヒップホップ・アーティストである。しかし日本における知名度はそれほど高くなく、その内外格差がそのまま客席に反映され、観客のアメリカ人比率がとても高かった。
自由で過激な発言や歌詞が何かと話題になる事の多いアーティストだが、僕は彼の音作りの洗練されたセンスと高いクオリティーに惹かれてデビューから支持し続けている。黒人音楽だけでなくロックやポップスに対しても強い興味を持ち、自分の音に大胆に導入していく自由さが彼の大きな魅力だ。この日も白人のファンが多く、彼の支持層の広さが感じられた。
ただ彼の音に迎合的な要素はなく、常に前衛的で冒険的な音作りに挑戦している。24歳という若いアーティストだが、ソロ活動だけでなくOFWGKTAというヒップホップ・グループを率いていて、そこで全ての作品のプロデュースやラップを担当している。アーティストとしてもオーガナイザーとしても、ヒップホップ・シーンの未来を担っていく存在といえる。
ライヴはとてもカジュアルで、24歳の若者がステージで楽しそうに遊んでいる感じ。これは過去のステージも同じで、ファンにはお馴染みのスタイルだ。シンプルなセットに3人だけのステージは、ある意味とてもパンク。ターンテーブルとマイクさえあれば、ストリートでもどこでもプレイできるというヒップホップの基本が貫かれているスタイルともいえる。このスタイルでワールド・ツアーを成功させてきた自信が感じられるパフォーマンスだった。
9月14日、リキッドルーム。
(2015年9月29日 日本経済新聞夕刊掲載)
日経ライブレポート 「タイラー・ザ・クリエイター」
2015.10.01 10:20