あまりに創造的な体験――映画『Eno』を見た!

あまりに創造的な体験――映画『Eno』を見た!

既に海外では大絶賛の嵐となっていたし、なんといってもブライアン・イーノのドキュメンタリーということで勇足で映画『Eno』を鑑賞。

話題になっているように今作が特異なのは、毎回異なる内容/構成になる世界初の完全ジェネラティブ・ドキュメンタリーだということ。
『Discreet Music』以降、イーノは自動生成プログラムによる音楽制作に取り組んできたことを考えると、この仕掛けにはとても合点がいく。
貴重なアーカイブ映像とともにイーノが語りおろすアイデアを、その最新形に身を置きながら体感することができるというわけだ。

ロキシー・ミュージックのメンバーとして。「アンビエント」の始祖として。デヴィッド・ボウイのベルリン3部作のコラボレーターとして。トーキング・ヘッズの重要作、そしてU2やコールドプレイの特大ヒット作のプロデューサーとして。はたまた、Windows95の起動音の制作者として、etc.。
多岐にわたる仕事をしてきた人ゆえに、毎回新しい「Eno」を生成し続ける今作の試みは、多様に変わり続けるイーノを余すところなく伝えている。

そして、本作を見て強く感じたのは、作品の受け手を信頼する勇気だった。
原理的に考えれば、映画は、映像と映像を繋いでいくことで物語を紡ぎ、世界観を築く芸術フォーマット。いわば、映像をどういう風に繋いでいくかは映画の肝でもあり、そこに作家性が光るし、作品のメッセージも宿る。
それを自動生成システムに任せるのは、映画というフォーマットを根本的に変えてしまう試みであるし、最終的な仕上がりは誰にも予測がつかない偶然性の彼方へと投げ出されている。
これは、作者の意図を超えて、受け手それぞれが作品をクリエイティブに解釈することが大事なんだと信じなければできないはず。
きっとこの勇気こそが、音楽の概念を変える革新的イーノ作品の数々を可能にしてきたのだと思った。
と同時に、自分の想像を超える未知との遭遇がイーノの原動力の一つであり、テクノロジーはその良きパートナーなのだな、とも。

稀代のアーティストのビジョンを体感し、世界の見え方が変わる――あまりに創造的な映画体験。必見です! (平澤碧)

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