小田和正×宇多田ヒカル共演、ついに実現。16年目にして改めて思う『クリスマスの約束』の意味

小田和正×宇多田ヒカル共演、ついに実現。16年目にして改めて思う『クリスマスの約束』の意味

「その瞬間」はトータル2時間に及ぶ番組の序盤、冒頭の小田和正のピアノ弾き語りに続いて、驚くほど早く訪れた。
12月23日深夜に放送されたTBS『クリスマスの約束』、宇多田ヒカルとの初共演が実現した場面である。

番組オフィシャルサイトでも「小田和正によるクリスマス恒例のコラボレーションライブ番組」と説明されている『クリスマスの約束』。
だがご存知の通り、2001年の第1回目は「小田自身が『《時代を創ってきた素敵な音楽達》を一緒に演奏してほしい』とアーティストに手紙を書くが、誰も収録会場に現れない」ところから始まった。
その際、SMAP/福山雅治/桑田佳祐(サザンオールスターズ)/松任谷由実/桜井和寿(Mr.Children)とともに小田が手紙を書いた相手が、ほかでもない宇多田ヒカルその人だった。
その後、初めて実際にゲストが登場した2003年以降、放送回ごとに多彩なゲストを迎えての共演が行われてきた。

そして今回、「18年前に鮮烈なデビューを飾り、瞬く間にスターになりました」という小田のMCとともに宇多田ヒカルが登場。
観客の驚きと感激が広がる中、15年前に小田和正がひとりでカバーした“Automatic”をふたりで歌う――というところまでは、事前の告知で心の準備もできていた。
が、続いてふたりは小田のギターのみの演奏で宇多田の“花束を君に”、さらに宇多田のリクエストでロックアレンジを施した小田の“たしかなこと”を次々に歌い上げ、音楽の魔法としか言いようのない珠玉の空間を描き出していく。最高のひとときだった。

小田和正という表現者の不器用さ……というか、口当たりのいい「器用さ」に一瞥もくれることなく音楽を磨き続けるその真摯な在り方は、ファンならずともおそらく誰もが感じていることと思う。
そんな彼の人間性はこの『クリスマスの約束』という番組にそのまま表れている。

この日出演していた、スキマスイッチ/根本要(STARDUST REVUE)/水野良樹(いきものがかり)といった「委員会バンド」のメンバーやゲスト陣=和田唱(TRICERATOPS)/JUJU/松たか子といった「常連」的存在こそいるものの、出演者と小田のトークは最低限に止め、あくまで楽曲とメロディを最も優れた形で響かせることにのみ力点が置かれている。
少なくとも、テレビ地上波の音楽番組としては、この「遊び」の余地の少ないストイックな佇まいは明らかに独特で、異質だ。
逆に言えば、そういう真摯な番組がほかになかったからこそ、小田はこういった場所を作る必要があった、と観ることもできる。

そこで改めて気になるのは、彼がこの『クリスマスの約束』で「約束」するものとは一体何か? ということだ。

小田和正が番組を通して何かを明文化して「約束」することはないし、視聴者や社会に対して特定のメッセージを発することもない。
そこにあるのはただ、またこの時期、この番組にチャンネルを合わせてくれる人のために、己の表現を磨き続ける、という意志だけだ。
そう考えた時に、小田の歌声が頭をよぎった。今年の全国ツアー「君住む街へ」でひときわ胸震えた、“さよならは 言わない”の絶唱だった。

《たとえ このまま 会えないとしても/思い出に そして 君に/きっと さよならは 言わない/決して さよならは 言わない》
(“さよならは 言わない”)

この日出演した宇多田ヒカルは“たしかなこと”について「誰でもわかるような身近な言葉を使って、日常的な風景の中に、人の生きることとか人同士の関係性を描くというスタンスに、作詞家として共感した」と語っていたが、この“さよならは 言わない”はまさにその極致だ。
番組スタート当初は54歳だった小田和正も来年は70歳。「聴いてほしいと思うような曲ができたら、ぜひともまたみなさんの前に……」と次のツアーへの意欲を伝える彼のMCを聞いて、客席に安堵の声が広がる――というライブ中の場面からも、「再会の約束」をすることの重みを、ほかでもない小田自身が感じていることが十分に窺える。

それぞれの想いを抱えながら、この時代を確かに生きて、至上の音楽に触れて感動を分かち合うこと。
それが小田の抱く唯一の、そして何より大切な「約束」なのではないか、と思う。

ちなみに、小田が番組の冒頭にピアノ弾き語りで歌ったのは、第1回にひとりで、第4回(2005年)には中居正広と一緒に歌ったSMAP“夜空ノムコウ”だった。
「またいつか共演できる日が来ること」への願いがこめられていたかどうかは定かではない。ただ、その歌はどこまでも凛として、美しかった。(高橋智樹)
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