インディ映画の祭典サンダンス映画祭が今年も1月に開催された。
参加していたけど、全くレポートしてなくてすいません。
その代わりと言ってはなんだけど、
そのとき上映された作品が、今ちょうど次々にアメリカで正式に公開され、サントラなど音源がリリースされている。
1)ブライアン・イーノのドキュメンタリー映画『ENO』。
ゲイリー・ハストウィット監督による予告編はこちら。
この映画のアメリカでの公開に合わせて公式サウンドトラック『Eno』が発売された。
https://www.universal-music.co.jp/brian-eno/products/558-4956/
収録された曲の中から”Stiff”のMVも公開。
ストリーミングはこちら。
https://brianeno.lnk.to/EnoOSTAtmos
以下トラックリスト
Brian Eno - All I Remember *Previously Unreleased*
Brian Eno with Daniel Lanois and Roger Eno - The Secret Place
Brian Eno & Fred Again - Cmon
Brian Eno & Cluster - Ho Renomo
Brian Eno - Sky Saw
Brian Eno & John Cale - Spinning Away
Brian Eno & Tom Rogerson - Motion In Field
Brian Eno - There Were Bells
Brian Eno - Third Uncle
Brian Eno & David Byrne - Everything That Happens
Brian Eno - Stiff
Brian Eno with Leo Abrahams and Jon Hopkins - Emerald & Lime
Brian Eno - Hardly Me
Brian Eno & David Byrne - Regiment
Brian Eno - Fractal Zoom
Brian Eno - Lighthouse #429 *Previously Unreleased*
Brian Eno & Roger Eno - By This River (Live At The Acropolis) *Previously Unreleased*
この映画の何が画期的かと言うと、イーノの過去のアーカイブ映像500時間分とイーノのインタビュー30時間分が、コンピューターで自動的に編集される史上初の”ジェネレイティブ映画”であること。なので、毎回違う映画が上映されるのだ。NYタイムズが計算したところによると、52x10の18乗パターンあるそう。
サンダンス映画祭で上映された際に、イーノはこう語っていた。
「僕は、今ちょうどヒップホッププロデューサーJ. DillaについてDan Charnasが書いた伝記本『Dilla Time』を読んでいたんだ。すごくよく書かれた本なんだけど、ここには本だからの限界があった。例えばひとつの時系列に沿った道筋で全てを語っていかなくてはいけないこととかね。
この映画の面白いところは、そうではないことだ。必ず映画の題材は出てくるけど――それって僕なわけだけど(笑)――でも、観る度に、それを違う角度から観ることができる。それで記憶って実際そういうものじゃないかと思うんだ。生きている間に、自分の記憶や思い出は、完全に違うものとして整理されたりする。自分の過去を、永遠に整理し直しているんじゃないかと思うんだ。思い出はひとつじゃなくて、毎回更新し続けている。だから、その時はそれほど大事とも思えなかったことが、時間の経過でより大事に思えるようになったり、または、その時はすごく大事だと思っていたことが、時の経過とともに、それほど大事でもなくなったりする。
それで伝記映画をと考えた時に、この映画はすごくオリジナリティがあってしかも非常にパワフルだと思ったんだよね」
監督はこう語っていた。
私も劇場で観たけど、私が観たパターンは、イーノがデヴィッド・ボウイやU2とレコーディングするところも出てきたし、デヴィッド・バーンも出てきたし、彼の自宅で、彼が人はなぜ音楽に惹かれるのかを非常に哲学的な観点から語るところや、今後の人生でやっていきたいことなどを語る、未来を見つめた希望が持てるような終わり方になっていた。数えきれない断片が繋がれてできた作品なのに、しっかりと物語として成立した素晴らしい内容になっていたのだ。残念ながら2回は観る機会がなくて、その他とどれくらい違うのかが比べられないのだけど。「これは、ジェネレティブな映画だからこそ、ブライアンが作りたいと思ってくれたと思うんだ。しかも、史上初のジェネレティブ映画がブライアン・イーノについてであるって、これ以上完璧なこともないと思った。彼こそが、そのパイオニアと言えるような人で、テクノロジーとクリエイティブの限界に挑戦してきたような人だからね。だから、彼のキャリアについて語る時、このアイディアで実験するのは、完璧だと思ったんだ」
日本での公開は、まだ決まっていないようだけど、日本の皆さんも絶対に楽しめる作品だと思うので、続報を待って下さい。
2)ノエル・ギャラガーも「最高楽しんだ」と言っていたアイルランド語でラップするKneecapの伝記映画『Kneecap』が公開。
今年のグラストンベリーで、ノエル・ギャラガーがライブを観て、「最高楽しかった」と言っていたアイルランド、ベルファスト出身のラッパーKneecap。
彼らの伝記映画がサンダンス映画祭で上映され、今アメリカで公開され話題になっている。
Rich Peppiatt監督によるこの作品の何が面白いかと言うと、3人組のKneecapが自分達で自分達を演じているところ。本人達は、「自分よりハンサムな俳優が見つからなかったから」とか、「ブラッド・ピットがやりたいと言ったけど断った」とかふざけて言っていたけど。実は、彼らが本人と知らないで観たら、俳優として良い演技をしていると思うくらいしっかり演じきっている。ちなみに、ブラッド・ピットこそ出ていないけど、マイケル・ファスベンダーが父親役で出て、出番は少ないながら相変わらずの名演を見せている。
自分で演じる伝記と言ったらエミネムの『8マイル』を思い出すけど、ノリとしては、完全に『トレインスポッティング』なコメディ。彼らがなぜアイルランド語でラップするようになり、アイルランドで人気を獲得していくのかまでが描かれている。
監督は制作のきっかけについて、
さらに、「2019年にベルファストで彼らのライブに行って、彼らが白い粉を観客に投げ始め、みんながそれをもらおうと走り回ってるのを観た時に、これは普通じゃないと思ったんだ。僕は若い頃に、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンが大好きだったんだけど、今は、音楽と政治がかけ離れたものになってしまって、全てがパッケージされたようになっている気がする。でも彼らは思い切り政治的であり、でもその結果がどうなるのかまるで気にしていなかった。それがものすごく新鮮に思えたんだ。それ以前に彼らの音楽が素晴らしいしね。その時の観客800人が、彼らのアイルランド語を一字一句全部一緒にラップしていたんだ。僕はベルファストに住んでいたんだけど、でも、こんなに大勢の若者が、アイルランド語を話してるなんて、気付きもしなかった。つまり僕ですら知らなかったんだから、世界中の人達は誰も知らないだろうと思ったんだ。映画監督として、誰も観たことがない物語を語れるって映画作りの基本だと思うからね」
「彼らは自分達らしくあろうとするだけで、政治的なんだ。彼らがアイルランドで人気があるのは、新しくて希望のあるポジティブな声を象徴してくれているからだと思うんだ」とも語っていた。
ただ、彼らは、
「言語を政治的にしたのは俺たちだと言いたがる人たちがいるけど。実際は、800年前に、アイルランドを植民地化して、言語消滅させようとしたことこそが、言語の政治化の始まりだったはずだ。俺たちは政治的なこととして捉えてない」と語っていた。
この映画はちょっと信じられないけど、アイルランド語の映画として初めてサンダンス映画祭で上映された作品となり、なんとすでに、アカデミー賞にアイルランド代表の作品として出品されることも決定している。アカデミー賞の国際長編映画賞は毎年優れた作品が集まるので、どうなるか分からないけど、現在アメリカでも話題となってるし、ぜひノミネートされて欲しい。
4ヶ月前にリリースされた”Fine Art”
フォンテインズD.C.の前座も務めると発表された。
3)アレックスGから、フィービー・ブリジャーズ、スネイル・メイルなど超豪華メンツが集まったA24配給の『I Saw the TV Glow』。
Jane Schoenbrun監督で、エマ・ストーンがプロデューサーに名を連ね、A24が配給する今作『I Saw the TV Glow』。一応”ホラー映画”ということにはなっているけど、アングラなS Fっぽくもある摩訶不思議な映画だ。好きなTV番組”The Pink Opaque”(=コクトー・ツインズのコンピアルバムのタイトルと同じ)を通して、孤独なティーネイジャー達が、自分のアイデンティティや、セクシャリティなどを見つけていく物語だ。
予告編はこちら。
この映画の驚くところが、関わっているミュージシャン。まず、スコアは、アレックスGが挑戦している。
音源はこちら。
さらに映画にはフィービー・ブリジャーズがバンドとしても出演。サントラも超豪華なメンツが揃っている。
音源はこちら。
また映画の中では使われているけど、サントラには収録されていなかった、スネイル・メイルがスマッシング・パンプキンズの”Tonight, Tonight”をカバーした音源が発表されたばかり。このジャケットからもスマパンとの関連性がうかがえると思うのだけど。
彼女は今回関わることになった経緯についてFlood Magazineに語っている。
https://floodmagazine.com/168525/listen-snail-mail-smashing-pumpkins-tonight-tonight/
スマパンの”Tonight, Tonight”はこちら。「この曲のカバーは、今回映画に出演することが決まる前に、『Valentine』ツアーで演奏しようと思って練習していた。私は、右腕に、史上初のSF映画『A Trip to the Moon』と、スマッシング・パンプキンズの”Tonight, Tonight”のビデオを記念して、タトゥーをしていたから。だから前から考えていたことだった。それで脚本を読んでいる時に、”the Pink Opaque”の宿敵も同じイメージにインスパイアされたものだと分かった。それを監督に言って、ライブを観に来てくれて、それで今に至るというわけ」
ちなみに、この映画にはフレッド・ダーストも出演。かなりずっと前に観たのとまさか出ていると知らなくて観ていたので、今となってはどんな役だったのか思い出だせない。すいません。
https://www.instagram.com/p/C7E0AdFu3LX/?hl=en
今年のサンダンス映画祭では、今年シカゴで開催されてから20周年のロラパルーザのドキュメンタリー『LOLLA: The Story of Lollapalooza』や、DEVOのドキュメンタリー『DEVO』も上映された。
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