6月16日に、NYでブロードウェイのショーに贈られるトニー賞が発表された。授賞式で、なんと、JAY-Zとアリシア・キーズが、”エンパイア・ステイト・オブ・マインド”を共演し大盛り上がり。その貴重な映像が公開された。
これはアリシア・キーズが制作に12年もかけたという半自伝的ミュージカル『Hell’s Kitchen』がミュージカル部門で最多の13部門もノミネートされたためだ。アリシア・キーズ役を演じる主演のMaleah Joi Moonと彼女のシンガーとしての師を演じるKecia Lewisの計2部門で受賞した。
ブロードウェイの舞台はほとんど観ないのだけど、アリシア・キーズの作品ということで私もオフブロードウェイで開始した際に観ている。この作品は、いわゆる”ジュークボックス”ミュージカルと言われるもので、アリシアのヒット曲が”ジュークボックス”から流れるようにどんどん披露される。
物語は、高校生の時の彼女が、両親と対立しながらもシンガーとして目覚めていく過程を描いた成長物語だ。舞台となったのが、彼女が子供の頃に住んでいたNYの”ヘルズ・キッチン”というエリア。ダンスや、ファッションからも当時のNYの空気感が再現されている。
オリジナルキャストによるアルバムも発売中。
実は、今年はミュージシャン絡みの作品が何作かあったため、私も偶然受賞作を観ていた。
1)元アーケイド・ファイアのウィル・バトラーが音楽を手がけた『Stereophonic』
アーケイド・ファイアを脱退したウィル・バトラーが音楽を手がけたドラマ『Stereophonic』が、ドラマ部門ではなんと史上最多という13部門でノミネートされた。
この作品が興味深いのは、フリートウッド・マックを彷彿とさせるような70年代のロックバンドが主人公で、舞台はレコーディングスタジオであること。バンドがヒット作を作るまでの舞台裏、人間模様が描かれている。
ただ、ミュージカルではなくて、あくまでドラマの中で音楽も演奏されるというものなので、残念ながら、ウィルはトニー賞を受賞しなかった。しかし、最優秀ドラマ部門から、主演や、監督まで、主要部門で、今年最多の5部門で受賞した。
ブロードウェイを観に行くと観客には大抵年配の方や観光客が多いのだけど、この作品を観に行った時は、いかにもインディロック・ファンというような人達がたくさんいたのが印象的だった。間違いなくアーケイド・ファイアのファンだなと思った。
ウィルは、バンドにいた時はお兄さんのウィンの方がどうしても目立っていたけど、自分の道を進むために脱退してすぐにこのような成功を手にしたので素晴らしいなと思った。
彼が曲をライブを演奏したりもしているし、もちろんオリジナルキャストのアルバムも発売。
面白いのは、キャストのほぼ全員が楽器も弾けないし、舞台で歌も歌ったことがほとんどない俳優たちだったことだ。
2)スフィアン・スティーヴンスの『Illinois』をもとにしたミュージカル『Illinoise』が、なんと4部門でノミネート。
これも、スフィアンの音楽を使っているため、観ていたのだけど、振り付けのJustin Peckがトニー賞を受賞した。彼が脚本も書いていて、これまでもスフィアンの作品『Year of the Rabbit』などを使ってバレエを上演したりしていた。それもスフィアンの作品だからということで観ていた。最近では、スティーヴン・スピルバーグ監督の『ウエスト・サイド・ストーリー』の振り付けも手掛けている。
この作品が興味深かったのは、主人公も、舞台にいるバンドもスフィアンにそっくりの格好をしていたこと。『Illinois』の曲を使いながら、キャンプファイアを囲んで登場人物たちが自分の物語を語り、踊るという内容だった。
個人的には、スフィアンのライブは数え切れないほど観ているので、その時のライブが頭の中で並行して蘇り、なんとも感慨深かった。何より優れた作品が違うアーティストによって解釈されて、また別のアートを生み出すのは素晴らしいと思った。
私の隣には、アメフトの選手みたいなガタイの大きい男性が座ったのだけど、始まった瞬間から最後までずっと泣いていた。スフィアンの音楽に思い入れがある人達も大勢集まっていたと思う。
この作品も当然オリジナルキャストのアルバムが発売されている。
ずいぶん前には、グリーン・デイの『アメリカン・イディオット』のミュージカルも観たけど、いかにもミュージカルになりそうな作品ばかりではなく、最近ではデヴィッド・バーンの『アメリカン・ユートピア』なども大ヒットしたように、よりインディロック寄りな作品がブロードウェイでヒットするのが興味深いなと思った。
また、アリシア・キーズによる”ジュークボックス”ミュージカルもヒットしたので、ABBAから、ボブ・ディランなどの曲をふんだんに使った”ジュークボックス”ミュージカルがヒットしたように、今後もヒット曲の多いミュージシャンの曲を使ったミュージカルが作られるかもしれない。
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