幕開けに上映されたのは、デミ・ロヴァートのドキュメンタリーで、『Demi Lovato: Dancing with the Devil』。予告編はこちら。
https://www.youtube.com/watch?v=jTiiD8L811w
これは、YouTubeオリジナルズでストリーミング配信されることになっていて、4回シリーズのうちの2回分が、3月23日に無料配信されることになっている。
その内容があまりに衝撃的だった。彼女が2018年にオーバードーズしたこと、そこに行き着くまでの過去のトラウマや、その後の葛藤などが描かれているのだが、何が衝撃的かと言うと、彼女が包み隠さずあまりに正直に、克明に、語っていることだ。とりわけ、オーバードーズした時の状態を聞くと、今生きているのが奇跡だと思えるくらい。オーバードーズしたのは、ヘロインとメタファタミンによるもので、さらにドラッグディーラーにその日レイプされ、裸のまま体が青くなっているのをアシスタントが見つける。彼女が救急車に電話するのが遅かったら、絶対に命は助かっていなかった。
またそこで、心臓発作と脳卒中を3回起こしており、目覚めた時は目が見えず、現在も脳に障害があるそうだ。今も見えない箇所があり、車の運転は許可されていない。彼女の母親が、彼女が入院している時の様子を語っているのだが、首に管が通されていて、それを間違って抜いてしまわないように、首に縫い付けてあった、と語るくだりなどは、あまりに苦痛なのだが、しかしだからこそ、このドキュメンタリーは特別な意味を持っているのだと思う。
彼女はその他、例えばティーンエイジャーの時にディズニーの映画に出演し、そこで共演者にレイプされたことや、父親がアル中で母に暴力を振るうため離婚し、ある時1人で亡くなっていたこと。マネージメントにダイエットするように言われ続けたこと、さらに、オーバードーズの後命が救われたのに、その後すぐに再び自分をレイプしたドラッグディーラーを呼び、再びドラッグをやっていたことなど、何もかもを語っている。また、このコロナ禍で婚約したがそれも解消となり、最後には、自分はクィアであることも告白し、髪を短く切っている。
全てが衝撃的であるが、オーバードーズやドラッグ中毒について、あまりに克明に語るからこそ、その危険性などがこれまでになくリアルに伝わってくるのだ。それを誰にとってもロールモデル的なメインストリームのポップ・スターがやったことには、大きな意味があるように思う。
彼女自身もここまで語るのは、それによって「誰かを救えるかもしれないから」と、後に行われたQ&Aで明かしていた。また、オーバードーズで入院している時に、それについて「正しく報道されていないので、全てを自分の口から正確に伝えないといけないと思った」というのがこの映画を作ることになったきっかけでもあった、と。
またこの問題がここで全て解決して終わりというわけではなくて、まだそれと向き合っているということが正直に語られているのも良いと思った。
彼女がサバイブしている理由のひとつは、音楽でそれが表現できたからでもあった。オーバードーズから2年でグラミー賞に出演し、“Anyone”をパフォーマンスしたこと、続きスーパーボウルで国歌をパフォーマンスした意味などもドキュメンタリーの中で語られている。
さらにポップ・スターとして人にコントロールされるのではなくて、自分で自分の決断をすることが最終的にはいかに大事なのかも語られている。
このドキュメンタリーのタイトルがついた新作『Dancing with the Devil… The Art of Starting Over』が、4月2日に発売されると発表されたばかり。彼女曰く、「この数年間の私の人生を歌うものなので、公開されたドキュメンタリーのサウンドトラックのようなものだ」と。
ちなみに、このドキュメンタリーを観ていて、ジャスティン・ビーバーが、自分のおかした過ちについて告白する同じくYouTubeのシリーズ『Justin Bieber: Seasons』を思い出したし(監督はデミのドキュメンタリーと同じ)、またアメリカで公開されて話題となったブリトニー・スピアーズのドキュメンタリーも思い出した。
https://rockinon.com/blog/nakamura/197688
さらに、ビリー・アイリッシュのドキュメンタリー『ビリー・アイリッシュ:世界は少しぼやけている』も公開されたばかりだ。
https://rockinon.com/blog/nakamura/197823
最近、これまでは全てが完璧でロールモデルだったアイドルやポップ・スターが真実を告白する映画が増えている。
ファンとの関わり方が、完璧ではない自分を正直にさらけ出すことで、よりリアルな結びつきを持つものに変わってきているような気がする。ファンもそれを求めているのかもしれないし、または若者のメンタルヘルスが社会で大きな問題となる中、それが要求されているということなのかもしれない。
SXSWの映画部門では、その他にトム・ペティが、『Wildflowers』をレコーディングした時に撮影されていて今まで一度も公開されていなかった映像を映画化した”Tom Petty: Somewhere You Feel Free”や、コロナ禍でアルバムを制作したチャーリーXCXがその時の模様をドキュメンタリーにした”Alone Together”が世界初上映される。
音楽部門では、Black Country, New Roadが登場するので楽しみだし、日本のmillennium paradeの出演も楽しみだ。いつもだったらここに出演したバンドは全米ツアーをしてニューヨークにも来ることが多いので、生で観られないのはとても残念だけど。
https://www.sxsw.com