アグレッシブなビートと深めにコーラスがかかったギターリフが並走するイントロという、Eveの代名詞的なサウンドで幕を明ける新曲“インソムニア”は、現在公開中の『映画 マイホームヒーロー』 主題歌として書き下ろしされた楽曲だ。
”インソムニア”=不眠症というタイトルは、家族のために犯罪に手を染めながら正義と悪の狭間でもがき苦しみ、眠れない日々を送る映画の主人公に寄り添ったものであろうが、《歯食いしばって ただ足掻いて もう戻れない夜を/君と超えろ そうずっと繋いでた 胸に秘めたの》と、取り返しのつかない出来事と今を切り離すのではなく、地続きにする(≒眠らない)ことで乗り越えていく芯の強さが高らかに歌われる。
上下左右、死角なしに配置された不穏なメロディは、不安と焦燥感を極限まで煽りながら覚醒と睡眠を細切れに繰り返す一夜のように緩急自在に駆け巡る。
上述したサビの一節《歯食いしばって ただ足掻いて もう戻れない夜を/君と超えろ そうずっと繋いでた 胸に秘めたの》では一瞬見失うほどに低空飛行したかと思えば爪の先まで鳥肌が立つようなファルセットが放たれ、聴いているだけでも呼吸が荒くなってしまうほどに持っていかれる。
疾走感溢れるダークチューンは彼の得意とするところだが、1番終わりでモノローグのように《本音は性根が腐ってんだ 不幸を願っている》と吐き出されるラップパートがこれまで以上にEveという存在を身近に感じさせ、そのまま静かに音に身を任せることができる。
まるで隣でひとり愚痴っている彼の姿が見えるような──そんな距離感を感じさせるのが今のEveだ。(橋本創)
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Eveの新曲“インソムニア”は眠れない夜を許容し、同調する
2024.03.16 18:00