ボン・イヴェールの解放

ボン・イヴェール『22、ア・ミリオン』
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ALBUM
ボン・イヴェール 22、ア・ミリオン
セールス的にも評価的にも破格の成功を収めた『ボン・イヴェール』から実に5年もの歳月を要したのも納得の、苦悩と格闘の末に生まれた傑作だ。その間、ジャスティン・ヴァーノンは複数の別プロジェクトで音楽活動を続けつつもボン・イヴェールに戻ることは避けてきた。彼にとって極パーソナルな場所だったはずのボン・イヴェールが前作で変容し、世界に曝されたことへの拒絶感もあったのだろう。しかし彼がこうして戻ってきたのは自身の牙城を再び閉じて守るためではなく、解放し、初めて自分の意志で世界と対峙するためだ。それが感動的なのだ。前作の複雑な重層性の先には必ずフォークの透徹した答えが待っていた。しかし本作は折り重なった音の混沌が最後まで続く。オートチューンで歪んだ声、荒ぶるブルースや艶やかなサックス、ナラティヴをぶつ切りにしていくサンプリングが何度も彼の繊細な魂を揺さぶり、矛盾や否定を突きつけていくが、その姿にこそ壮絶な美しさが宿っている。透き通ったピアノとコーラスで浄化されていくラストの“00000ミリオン”が、世界を受け入れ、己が受け入れられた安堵のため息のように聞こえる。(粉川しの)
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